最後のソーラーカーレース鈴鹿

最後のソーラーカーレース鈴鹿
とうとうこの時が来てしまいました。

ソーラーカーレース鈴鹿は、F1の国際レースが行われる本格コースを、一般人である学生や社会人が自作のソーラーカーで走れ、ガソリンを一滴も使用しない、地球に非常に優しい貴重なカーレースでしたが、30周年を迎える今年、その幕を閉じることになってしまいました。学生がものづくりを実践的に学ぶためのとても良い機会で、ソーラーカー製作に関わった後、大手メーカーへ就職した方も多くいます。

Altairのスポンサーとしての参加はまだ3回目ですが、こうした活動に意欲的に取り組まれる学生にシミュレーションの魅力を伝えることができることとともに、ソーラーカー界の重鎮ともいわれる方々から、ソーラーカーの歴史について色々な話を伺うのも楽しみの一つでした。参加初回の2018年には、NASA所属で鈴鹿では静岡ソーラーカークラブ、World Solar Challengeでは東海大学のドライバーを務めるSidd Bikkannavar氏やソーラーカー会のレジェンドで解説も務める池上敦也さん、前回の2019年大会では、World Solar Challengeの創設者Jeppe Tholstrup氏にも会う幸運にも恵まれました。

特にレース中の池上さんの豊富な知識がちりばめられた名解説が、レースをより盛り上げてくれました。池上さんの美声と名解説が聞けなくなることが何より残念です。全くの素人である私たちに、若き頃のWorld Solar Challengeへの初出場の話から、目の前を走っている車両の開発秘話や性能、ドライバーの小ネタまで、分かりやすく教えてくださったことにこの場を借りてお礼申し上げます。

今回、池上さんとWorld Green Challenge(大潟村)組織委員会副会長の山本久博さんからお聞きした話で大変面白かったのが、MITSUBAのモーターのお話です。大潟村のエコノムーブのレースで、池上さんが初代王者に輝いた数年後、MITSUBAが自作の一点物の非常に強力なモーターで乗り込んできて優勝。当初は販売が予定されていなかったそのモーターが、関係者の尽力によって発売されるに至り、一気にエコノムーブとソーラーカーでのシェアを広げていき、今ではほとんどの日本チームがMITSUBAのモーターを使用するようになっています。さらにオーストラリアで開催されるWorld Solar Challengeの強豪チームの目にもとまり、世界におけるシェアも広げていき、前回の2019年の大会で優勝したBlue PointもMITSUBAのモーターを使用していたようです。

2018年のKV-Bike観戦記でも書きましたが、鈴鹿で2年連続でお隣のブースになって色々教えていただいた縁で、ソーラーカーの翌日開催されるEne-1のKV-Bikeに出場されるMITSUBAのミツバイクを勝手に熱く応援しています。ソーラーカーレースは今年が最後ですが、このEne-1グランプリは来年以降も盛りだくさんになって継続していくようですので、今後の活躍にも期待しています。

ソーラーカー5時間耐久レース

さて、肝心のソーラーカーレースですが、5時間耐久のレース中、鈴鹿山脈から黒い雲がせまり、小雨が降りだしました。ソーラーカーですから、太陽光を遮る雲は大敵です。また、ソーラーカー専用のタイヤはつるつるですから濡れた路面には向きません。長いレースの歴史上、土砂降りになったことは1度しかないそうなのですが、土砂降りになった場合はレースの中断もあり得るというアナウンスブースからのコメントもあり、祈るような気持ちで見守っていました。最後の鈴鹿に神様が配慮してくれたのかもしれません。奇跡的に天気は回復して胸をなでおろしました。

絶対王者ともいえるTEAM RED ZONEとトップの座を争ってきた大阪産業大学が今回不参加となったため、TEAM RED ZONEの独壇場となり、スタート直後からどんどん後続を引き離していきます。これはもう1位は確定で、実質2位以下の争いかと思われたのですが、途中、ルーティーン外でのピットインを行い、その後も少しペースを落として、柏会とまさかの首位交代が起こります。しかし、そこはさすが王者。計算されたかのように首位に返り咲きました。Fastest Lap、3’47.169という驚異的な記録を出した後スローダウンするという予想外の出来事はありましたが、最後のチェッカーフラッグをトップで受け、有終の美を飾りました。

今回目を引いたのは、最初にして最後の出場となった工学院大学付属高等学校 自動車部です。車体こそ、お兄さんにあたる工学院大学ソーラーチームから譲り受けたものの、中身は総入れ替えされています。ですが、そこは電気系統に強い濱根先生の指導力によるのか、大学生や社会人に交じって、一時5位くらいまで順位を上げます。最終的にはDreamクラス5位、総合で12位。高校生としての初出場としては、立派な結果だったと思います。今後の進化に期待です。

癒し系の顔を持つ異色のチャレンジャー愛知工科大学のAUT-2016は、やはり今年も目立っていました。また、最後のレースとなるため、紀北チームを支えてきた先生がドライバーとなりチェッカーフラッグを受けるという、感慨深いシーンもありました。

さて、来年以降のソーラーカーレースは、大潟村、和歌山、オーストラリア(または南ア)という選択肢になりそうです。今回の参加チームに来年以降の予定を聞いてみたのですが、まだ迷っているという学校がほとんどの中、World Solar Challengeに挑戦してみようと思っているという頼もしいチームもありました。

Ene-1 グランプリ

ソーラーカーレースの翌日に開催されるEne-1には、ドライバーが寝そべる格好で運転するような車両を含むクルマが競うKV-40と、自転車レースKV-Bikeのふたつがあり、Panasonicの充電池40本のみを動力源として走ります。例年は、エコラン界でもレジェンドである池上さんが解説されますが、今年はKV-40で優勝経験のあるTeam BIZONの田村 俊介さんが解説を務められました。

実は田村さんは、本業でAltair製品を使っていただいていて、構造解析に造詣が深く、学生・教員向けテクノロジーイベントAltair University Japanで「エコランカーの構造設計基礎」と題して講演していただいたことがあり、非常に好評でした。昨年までは大阪産業大学のソーラーカーチームのブレインとして参加されていましたが、今年はその深い知識をもとに解説を任されることになったようです。

今年のKV-40は学生の参加が増え、その実力が上がってきているのが印象的でした。車やモータースポーツに興味を持つ学生が減っている昨今にあって、こうして自分たちが作ったクルマで競技に参加している姿を見ると、今後の自動車産業を支えていく人材が育っていることを嬉しく感じます。レース自体は、途中で止まってしまってリタイアするチームが続出する中、木本工作所が安定の走りで3連覇を果たしましたが、今後実力をつけた学生たちが活躍してくれることを期待させてくれるレースでした。

KV-Bike 2021以前にもレポートしましたが、個人的には国際レーシングコースを電動自転車が、ときにはよろよろと走るというシュールな光景が広がるKV-Bikeが好きです。ソーラーカーレースには高い技術力が必要ですが、KV-Bikeは40本の電池とモーターで自転車を動かすという比較的単純な仕組みですから、中学生でも気軽に挑戦できるのが良いところです。

例年、最初の難所ダンロップコーナーからの上り坂を登れない自転車が続出するためか、今年から逆向きに走るようルールが改定されました。スタートからいきなり上り坂となってしまうので、スタートすることすらできないチームが出るのではないかと心配しましたが、全員が無事走り出すことができ、安堵しました。前述したMITSUBAのミツバイクが6連覇中ですが、勝負に絶対はありません。

KV-Bikeのレースは、1周タイムアタックと30分トライアルの2部構成となっていて、両方の合計獲得ポイントで競います。タイムアタックは1位から20位まで1ポイントずつしか差がありませんが、30分トライアルではトップ3のポイント差が5ポイントと大きいので、どちらも全力で走ればいいというわけではありません。タイムアタックと30分トライアル間に充電ができないので、エネルギー管理戦略が非常に重要になります。

今回は、そういった面でMITSUBAの大人の戦略が光りました。タイムアタックでは、他チームのタイムを後方で観察し、逆転可能な順位で、かつエネルギーを温存できるタイムでゴールし、3位につけます。30分トライアルでは後方からトップに華麗に踊り出たバイクがあり、波乱の予感もありましたが、ふたを開けてみればミツバイクの圧勝でした。

レース後、MITSUBAさんに話を伺いましたが、磯村ドライバーのテクニックと頭脳があってこその勝利だそうですので、あの強すぎるバイクをもらったからと言って勝てるわけではないそうです。万が一チェッカーをもう少し早く受けて、もう一周しなくてはならなくなっていたとしたら、戻ってこられなかったかもしれないくらいぎりぎりまで電力を使い切っていたことからも、その計算の緻密さが分かります。ちなみに、ミツバイクの構成などは公開されているそうですので、誰でも真似することはできます。まずは完走を目指して参加してみてはいかがでしょうか?

シミュレーションを取り入れる

国外のソーラーカー、エコラン、学生フォーミュラを見てみると、上位入賞校は必ずと言っていいほどシミュレーションを活用しています。例えば2019年のWorld Solar Challengeで優勝したBluePointや、多くの北米記録を持つ学生フォーミュラチームUnicampなどがあります。多くは、車両や部品の軽量化と空力です。今回、多くの学生さんと話す中で、3D CADを取り入れているというチームがいくつかありました。3D CADのモデルを既にお持ちなら、シミュレーションへのハードルは高くありません。また、まだソフトウェアは使わず、勘だけで作っているというチームには、部品ひとつの軽量化から始めるのがお勧めです。

Altairのシミュレーションソフトウェアは、学生なら無料で使えます。チームでも個人でも応募可能な最適化コンテスト(賞金10万円)を足掛かりにしてみるのもいいかもしれません。「使い方も分からないし」と躊躇している学生のために、トレーニングも予定しています。

会期中、先生たちもブースを訪問してくださいました。教員向けにおすすめしているのはクラスルームライセンスです。現場のエンジニアが実際に使っているソフトウェアを取り入れることで生徒の好奇心を高めることができると、授業に取り入れている先生も増えてきています。こちらも、無償で提供しています。昨年開催した学生と教員向けのテクノロジーカンファレンスで発表された帝京大学、理工学部機械・精密システム工学科、黒沢 良夫 准教授が実際に授業に活用される様子は、「[Altairクラスルームの活用例]機械工学実験における振動解析モデル作成」でご覧いただけます。

今年の学生・教員向けテクノロジーカンファレンス「Altair University Japan 2021」は、「ものづくりエンジニアのためのシミュレーションの知識と就活のヒント」をテーマにCAEが各業界でどのように活用されているかをご紹介します。是非ご参加ください。

無償学生版 Student Edition アルテアの学生活動支援

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カテゴリー: イベント, 事例, 学生支援

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