バック・トゥ・ザ・フューチャーのドク・ブラウンは本当に生き延びたのか?

身近な科学検証シリーズ

物語の概要

1955年11月5日(視点によっては1985年10月26日)、主人公マーティ・マクフライはタイムトラベルに成功します。過去に取り残されてしまった彼は、「未来に戻る」ためにタイムマシンの発明者となる予定のドク・ブラウンと、当時は10代だった両親の協力を得て、自分の壊れたタイムラインを修復しようとします。

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このシーンを忘れてしまった人は公式チャンネルで確認
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しかし、物語のクライマックスには、明らかにおかしな点がひとつ。

帰還直前、デロリアンに装着された金属製フックが、ヒルバレーの時計台につながるケーブルに接触し、デロリアンの時速88マイル(約142km/h)に達した瞬間、落雷によってケーブルに電流が流れ、全系統通電状態のスパークを引き起こして時空跳躍の電源を形成します。この「OSHA(労働安全衛生法)」違反行為が、マーティの1985年への帰還を可能にしたのです。

しかし、鋭い視聴者なら、「雷に耐えたフックは、ケーブルから難なく外れて空中にぶら下がったまま1955年に残り揺れている」ことに違和感を抱いたのではないでしょうか?

1923年の映画『Safety Last!』でハロルド・ロイドが巨大な時計針にぶら下がるシーンはオープニングとクライマックスの二度登場

「現実の世界」では、ドクがハロルド・ロイド(上の画像参照)の真似をした直後に命を落としていたはずだと分かります。しかし映画は悲劇的展開を選ばず、代わりに軽く感電したドクは、時速88マイル(約140キロ)で疾走するデロリアンの傍らに放心状態で地面に座り込む程度で済んでいます。

そこから70年(設定上ではそれ以上)たった今、Altair® MotionSolve® を使って、この“ドク・ブラウン生存説”の妥当性を科学的見地から検証してみようと思います。

検証の手法

MotionSolve は、世界中のエンジニアが複雑なシステムの動き、力、動力学をシミュレーションするために使用するマルチボディダイナミクス(MBD)ソフトウェアです。たとえば、車両のブレーキ性能の最適化や安全性検証、航空機の着陸装置の挙動解析などに活用されています。本検証では、タイムマシン、雷用フック、通電したケーブルを再現し、リアルなシステム挙動の妥当性を評価します。

このシミュレーションでは、システム内で発生する力を算出・評価し、何が破損する可能性があるかどうかを確認します。

  • フックはデロリアンから外れて、断線することなく無事にワイヤーに残るのか?
  • それとも、次のような故障モードが発生するのか?
    • フックが破断する
    • ケーブルが断裂する

MotionSolve が、その答えを導き出します。

前提条件

フックが破損するかケーブルが切れるかを評価するためには、直感に反して、「それらが耐えられる」と仮定してシミュレーションをモデル化する必要があります。そうすることで、解析された力をそれぞれの材料の耐力(破断・破壊される前の最大耐荷重)と比べることができるのです。もし力がそれを上回れば、部品が破損する可能性が高いということです。

注目すべきは、これらの部品が無事であれば、シミュレーションでフックの予想動作も表示されることです。これにより、フックがタイムマシンから安全に外れるかを評価できます。

出来事を再現するには、ケーブル、フック、そしてタイムマシンに関する膨大な情報が必要です。入手可能な情報が不足していたため、映画を綿密に調査する必要がありました。大量のポップコーンを消費しながら、エンジニアリングのベストプラクティス、材料特性、そして1955年当時の技術に基づく推測により、次の前提条件を導きだしました。

  • フックの形状、構造、材料特性
  • ケーブルの形状と材料特性
  • ケーブルの初期張力と境界条件
  • フックとケーブルの摩擦係数
  • フック固定部の形状、材料、摩擦係数

さらに計算簡略化のため、以下の仮定を設けました。

  1. ケーブルは断面円形の「ポリビーム」で構成(柔軟かつ編み構造のケーブルをMBDで詳細にモデル化することは困難なため、この簡略化で近似)
  2. ケーブル以外の部材はすべて剛体とみなす

デロリアンの形状モデルは、Turboquid による Orest Terremoto 氏の3Dデータを使用

最後に、ボディ形状は完全に装飾目的であり、シミュレーションの最終結果には影響しないため、映画公開40周年を記念してデザインを2025年仕様にアップグレードしました。

シミュレーション結果

すべてが計画通りなら、フックは安全に外れるか?

フックとケーブルを含むシステムすべての部品が損傷しないと仮定して、Altair MotionSolveでこの事象を再現すると、シミュレーションではフックがホルスターから無事に外れて、ケーブルに引っかかる様子が確認できます。その後、フックは大きな運動量によってケーブルの周りを回転します。重量の慣性によって数回転した後、フックは地面に落ち、ドクから遠く離れた場所で金属音を立てます。

タイムマシンが時速88マイルでケーブルに衝突する様子を再現したMotionSolveによるMBDシミュレーション。フックはケーブルの周りを回った後、地面に落下

タイムマシンからフックが外れる様子をスローモーションで表現したアニメーション

フックがケーブルに当たって地面に落下する様子をスローモーションで表現したアニメーション

フックは壊れるのか?

 

部品の応力解析と弾性体のモデリングには、一般的にCraig-Bampton法(モード合成法)を用います。しかし、弾性体は応力とひずみの関係が線形であるという仮定に基づいており、このモデルではその仮定は成り立ちません。また、弾性体では部品の破損を表示する方法もありません。

代替手法として、動的荷重やフックの非線形な材料挙動を考慮するため、安全率を含めた手計算を行う方法があります。シミュレーション中にフックにかかる力を監視し、各タイムステップでの最大応力を算出します。最大応力が降伏強度(安全率を考慮)を超えた時点で、フックは破損すると仮定できます。

計算の結果、ケーブルが張った瞬間にフックの応力が降伏強度を超えることが示されました。これは、フックが降伏を開始し、固定部から引き抜かれる際に破損する可能性が高いことを意味します。

ケーブルは切れるのか?

ケーブルには公表されている破断強度があり、例えば3/8インチ(約9.5mm)径・7×19編みのステンレス鋼ワイヤーケーブルは、約12,000lbf(約53,000N)で判断するとされています。ケーブルが引っ張られると、ケーブルの張力が最大強度を超えるため、ケーブルが断線する可能性も高くなります。

結論:タイムパラドックス

叙述されたように、シミュレーションでは、「もしも部品が壊れなければ」フックは外れて地面に落下することが分りました。ただし、その際に発生する力によってフックが破損して破片が飛び散る上、断裂した鋼ケーブルがムチ状態となって高速で飛び交う危険な状態に陥ります。

ドクは至近距離で尻もちをついているため、彼が助かる可能性は極めて低いでしょう。破片を避けることができたとしても、金属製のムチは別問題です。ケーブルが切れる様子はMotionSolveでは再現できないものの、ドクは残念な結末を迎えたと推測できます。

この映画の劇的でロマンチックなエンディングが現実の物理法則に則っていたとすると、過去の変化(助かるはずのなかったドクが最悪の事態を逃れたなど)が与える未来への影響で矛盾(パラドックス)が連鎖的に広がったことで、時間と空間の法則が成り立たなくなり、その結果、少なくとも地球、あるいは私たちの銀河系が破壊的結末を迎えることになったでしょう。

バック・トゥ・ザ・フューチャーの40周年おめでとうございます!

*本ブログは米国本社の「Digital Debunking: Doc Brown’s Survival in Back to the Future」を翻訳したものです。

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カテゴリー: Altair Global Blog, 身近な科学検証

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