11月22日にザ・ガーデンルーム(恵比寿)にて『solidThinking Converge 2017』(以下、Converge)を開催しました。工業や製造業における解析やシミュレーションのソリューションを提供するアルテアは、デザインとテクノロジーの垣根を越え、両者が収束(Converge)したものづくりの可能性を提示するべく当イベントを開催しています(参考:「デザイナーが構造解析から得られるメリットとは? – アルテアエンジニアリング社長に聞く」マイナビニュース)。世界5カ国で展開されているConvergeでは、ものづくりの第一線で活躍する著名人を講演者としてお招きし、それぞれのデザインに対する考え方や手法についてお話しいただきます。
今年の日本におけるConvergeでは、最新のVR技術やsolidThinkingソフトウェアを活用したコンテンツも会場内で展示し、来場者の皆様に楽しんでいただきました。
基調講演1 | 澄川伸一氏
プロダクトデザイナー 澄川氏の講演では、ご自身の作品を例にデザインの手法を解説していただきました。澄川氏の作品は曲線が特徴的です。メディアで度々取り上げられていたリオオリンピック公式卓球台はご存知の方も多いのではないでしょうか。こちらの脚の曲線には楕円ではなくて、物が自然に描く放物線があしらわれています。
澄川氏のデザイン作品。左はリオオリンピック公式卓球台
澄川氏が手掛けたデザインからは温かみのあるやわらかい印象を受けますが、これらが生み出される背景には3DCADへの理解や3Dプリンタの活用などの工学的なリソースがありました。最新の技術やツールが駆使されており、まさにデザインとテクノロジーの交差がみられる作品の数々でした。
澄川氏の講演を通して感じられたのはご自身の体験を重視されているということです。例えば「香り立つグラス」のデザインでは、お酒の味が引き立つ形状を工学的にリサーチすることはもちろん、このプロジェクトの間は3Dプリントした数多くのプロトタイプで毎日試飲されたといいます。
香り立つグラス
知識と技術からのアウトプットを体験にもとづいて判断・選択されており、これこそが美しさと使いやすさを両立させる秘訣ではないかと思いました。
ユーザーセッション1 | 柴田映司氏
さまざまなツールを使いながら独学でデザインを学んできたという柴田氏のセッションでは、Inspireを活用したシミュレーション基軸のデザイン過程をご紹介いただきました。インテリアやプロダクトを幅広く手がけている柴田氏は2013年にデザインしたハンドバイクでグッドデザイン賞を受賞しています。今回の講演では、このハンドバイクの再設計において強度を保ちながらも軽量化することに成功したものの、その成型や組み立が困難だったというエピソードもお話しくださいました。
休憩時間には会場の皆様にもハンドバイクをお楽しみいただきました。
基調講演2 | 石黒浩氏
基調講演の第2部は世界的に著名なロボット研究者である石黒浩氏による講演です。アンドロイドの見た目や構造、そして人との関係性をどのようにデザインしてきたか、これまでの作品に沿って解説していただきました。アンドロイドの製作プロセスを通じて哲学的なお話をされながらも、とても軽妙な語り口調で何度も会場を沸かしていらっしゃいました。
石黒氏の研究はジェミノイドなど特定の誰かにそっくりなアンドロイドがよく知られています。これらの個人に似せたアンドロイドとは対極的な、むしろ誰にでも見えるような顔立ちと表情のアンドロイドについても解説していらっしゃいました。テレノイドは年齢や性別もあいまいな見た目ですが、無個性な姿だからこそ人の感情を引き出せるというコンセプトは非常に独創的なコミュニケーションデザインの一例ではないかと思います。
テレノイドは石黒氏の夢に出てきた”人”をモデルにご自身で粘土細工され、
それをもとに多くのデザイナーによってプロトタイプが製作されました。
また、このほかにも人の手や体の動きをロボットに再現させる研究も紹介されており、この時の「人らしい姿でなくても人らしさが表現できることに可能性を感じる」というお言葉がとても印象的でした。
スポンサー講演 | 田中洋氏
Microsoft 田中氏はHPC/CAEに利用されるクラウド技術としてMicrosoft Azureとその特徴について講演されました。GPUの強化を基軸に開発が進められているMicrosoft Azureがどのようにものづくりに寄与するのかを、モデルケースと共に解説していただきました。また、弊社よりピエトロがMicrosoft Azure上で使用可能なInspire Unlimitedについて発表させていただきました。形状最適化ツールであるInspireの基本的な機能に加え、クラウドで使用可能なUnlimitedならではの特徴を高速計算やデータ管理・共有の利便性といった観点で紹介しました。
ユーザーセッション2 | アレクサンダー・デヴォワ氏
3D Printing Corporationの代表を勤めるアレクサンダー氏の発表は3Dプリンタが到達したポイントと現状残っている課題を明確にすることから始まりました。アレクサンダー氏はコンピュータの一般化を例に3Dプリンタがより安価で柔軟なツールとなることを想定し、現時点での課題が技術ではなくコストであることを指摘しています。
その上で、これからのものづくりのあり方を見据える必要性を強調し、現在GKダイナミックス社と共同で進めているパラリンピック眞田選手の義足リデザインプロジェクトにおける具体的な活用方法を紹介してくださいました。
ミライデザインアワード | 金優希(アルテアエンジニアリング)
最後のセッションでは学生向けのデザインコンペティション『ミライデザインアワード』の受賞者発表が行われました。
このコンペティションは3Dデザインソフト solidThinking Evolve(現Altair Inspire Studio)を使用したレンダリングでプレゼンテーションシートを作成することが条件となっており、今年は「breakthroughな文房具」というテーマでアイデアを募りました。2017年度の受賞作品は大阪芸術大学 松本陸さんによる「蛍」となりました。
松本さんは3Dモデリング初心者でしたがミライデザインアワードをきっかけにEvolveを使い始めたそうです。短期間での学習でありながらも受賞に至った理由のひとつに、Evolveの解りやすさ・使いやすさを挙げてくださいました。閃いたアイデアをイメージし続け、細やかに描き起こす力があってのことだと思います。本当におめでとうございます。
展示コーナー |K’sデザインラボ、Microsoft、アルテアエンジニアリング
会場内に併設された展示スペースでは株式会社ケイズデザインラボによるVR作品が大人気でした。東北学院大学 佐瀬一弥助教とケイズデザインラボの共同企画である「VR 空間内でのデジタルモデルに対する触覚インタラクション」は、HMDから見えるVR空間内のなまこにハプティックデバイスを通して触り、その柔らかさを体感できる作品です。こちらのコーナーを訪れた皆様にVR技術の新たな展開を楽しんでいただきました。
その他にもMicrosoft様よりMicrosoft Azureを、アルテアエンジニアリングからはInspireやEvolve、3Dミライデザインに関して展示を行いました。
ご参加くださいました皆様、ご講演者の皆様のおかげでsolidThinking Converge2017を盛況のうちに終えることができました。誠にありがとうございました。
今後もより良いイベントを提供できるよう尽力してまいりますので、今後ともアルテアエンジニアリングをどうぞよろしくお願い申し上げます。


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