ボート競技の中でも両手にオールを持って漕ぐ種目を「スカル種目」といいます。
スカル種目では、オールを固定するための部品「クラッチ」を左右に取り付けます。このクラッチはボート本体から50~60cmほど離れた位置にあり、船を漕ぐ動作におけるオールの回転運動の支点となります。また、船体とクラッチとを結ぶ部品(図1の赤い部品)を「リガー」といいます。
図1 スカル種目におけるボートの構造
競技用に使用されるボートの船体やオールの形状はどのメーカーのものでもほぼ同一の形状です。しかし、図2のようにリガーの形状には様々なものが存在します。
図2 さまざまなリガー形状(※赤い部分がリガー)
また、スカル種目では、漕ぐ動作の中で両手が腹部の前で上下に重なる瞬間が生じるため、一般的に左右のオールの取り付け位置に10~20mm程度の高低差をつけます。しかし、リガーは左右で同じ形状のものを使用することが一般的です。
図3 クラッチの位置には高低差があるもののリガーの形状は同じ
ここで、2つの疑問が生まれます。1つは、「多くのリガー形状があるが、最適な形状は何か?」、もう1つは、「オールの取り付け位置が左右で違うのに、リガーは左右で同一形状のものを使っている、これは理にかなっているのか?」という疑問です。
そこで、ボートの本体とオールをつなぎ、漕ぐ力を艇に伝える重要な部品「リガー」の構造に着目し、最適化ツールAltair Inspireを使ってトポロジー最適化を行ってみます。
1. 解析手法・境界条件
まず、リガー形状の設計領域を図4の色付き部のように設定しました。設計領域の縁の部分にある棒状の部品はクラッチを簡略化したものです。
図4 最適化する設計領域を設定
次に、解析時の境界条件として、オールからボート進行方向へ伝わる圧力と、オールから水面方向へ伝わる圧力をそれぞれクラッチに設定しました。また、ボートが水面に固着せず、浮かんでいる状態を想定し、拘束の設定を行いました。
図5 境界条件と拘束条件を設定
今回は、最適化の目的を、「剛性の最大化」および「質量の最小化」の2パターンとして最適化を行います。
2. 最適化
結果はそれぞれ以下のとおりです。
<全体外観>
<正面図>
<平面図>
図6 解析結果(剛性の最大化)
<全体外観>
<正面図>
<平面図>
図7 解析結果(質量の最小化)
表1 最適化後のリガーの質量
最適化の目的を「剛性の最大化」と「質量の最小化」の2パターンに設定して最適化を行いましたが、どちらも同じような形状になったといえます。また、左右のリガーを比較しても、形状に若干の差は見られるものの、そこまで大きな差ではないといえる結果となりました。しかし、最適化の目的の違いにより、最適化後のモデルの質量は大きく異なることがわかりました。
3. 解析
それぞれの最適化形状の応力と変位を比較してみると、応力の集中部や変位量に違いがあることがわかりました。
図8 剛性を最大化した結果の変位と応力
図9 質量を最小化した結果の変位と応力
4. まとめ
今回2つの条件で行った最適形状は、どちらも二点リガーに近い形状となり、クラッチの取付位置がずれていても左右の構造にさほど違いが見られませんでした。しかし、既存の製品と異なり、各所に枝のような構造が表れました。実際には水の抵抗なども考慮すべきと思いますが、リガーの形状には改良の余地がありそうです。また、今回「剛性の最大化」、「質量の最小化」の2つの条件で最適化を行い、出力される構造の違いを確認できました。Inspireで目的に合ったトポロジー最適化を行ってみてください。
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