トポロジー最適化による最新のスタジアムデザイン

4年に1度、何千人ものアスリートと観客が一堂に会するオリンピックは、最大級の国際的なスポーツイベントです。オリンピックを開催するということは、その国の文化と革新的な未来を芸術的に表現することになります。例えば、2008年北京オリンピックで注目されたスタジアムは、「鳥の巣」という愛称で呼ばれています。これは、スタジアムを支える梁の構造が、インスピレーション源である鳥の巣の複雑に編み込まれた小枝に似ているからです。

オリンピック招致のために、開催国は通常、真新しいスタジアムやその他のインフラを建設しますが、これには綿密な計画と、もちろん巨額の資金が必要です。スタジアムのような大きなプロジェクトで、しかも準備期間が短い場合、実現可能なデザインか、見た目が美しいか、予算内に収まるかの確認が大変重要です。

最新のシミュレーションソフトウェアを使用することで、時間と予算の問題を乗り越え、革新的かつ構造的にも優れたスタジアムを作ることができ、同時にその国の文化やライフスタイルの特徴をデザインで表現することができます。トポロジー最適化を利用すれば、荷重パターンを把握し、新しいコンセプトの構造的な問題を回避できます。

Altair® Inspire™のトポロジー最適化技術は、人間の体内で応力に反応して骨が成長する様子を反映して開発されました。このバイオミミクリーにアイディアを得たアプローチにより、設計領域内に有機的な負荷経路を作り出し、可能な限り少ない材料で強度と剛性の目標を満たす効率の良い構造を探求できます。その結果、美しく機能的な設計が可能となり、材料費の節約にもつながります。

 Altair Inspireで作成された「Colossus(コロッサス)」スタジアム設計プロジェクトのモックアップ

Altair Inspireで作成された「Colossus(コロッサス)」スタジアム設計プロジェクトのモックアップ

AltairのSenior Director of Global Architecture Engineering and ConstructionであるLuca Frattariは、博士号取得時にInspireを使用して、スタジアムのコンセプト「Colossus」を作成しました。スタジアムのインスピレーションや、建築におけるコンピュータ支援エンジニアリング(CAE)の将来性についての洞察を聞きました。

スタジアム再設計プロジェクトの目的

「このプロジェクトで、トポロジー最適化技術を活用しようと思いました。スタジアムの各リングは、それぞれ異なる建築的ディテールで作られています。スタジアムには2つの対称軸があるので、デザインの1/4を2回ミラーリングすると、デザイン全体のレイアウトを模倣することができます。このプロジェクトが行われた2010年当時は、このサイズのモデルを扱えるだけの性能を持ったコンピュータがなかったため、一度に作業できるのは4分の1だけでした。トポロジー最適化で少しでも多くの知見を得ようとしました。

外側のリングをよく見ると、真ん中や下のリングとは違っていて、それぞれのリングの支持部のデザインも微妙に異なっています。私が目指したのは、技術の限界を超えて、どのような結果が得られるか、モデリングの結果を文字通りに解釈することでした。私は、一般的な梁や棒、線状の要素で構成される構造を合理的に考えませんでした。できるだけ多くのつながりを持ち、上から下に向かって構造体の流れが『動く』ようにしたかったのです。当時デザイナーだった私は、このようなアプローチでどれだけのものが作れるのか試してみたかったのです。その結果、この図のように、一般的なデザインよりも美的感覚を重視したものになりました。」

トポロジー最適化技術を用いてスタジアムを再設計

トポロジー最適化技術を用いてスタジアムを再設計

再設計のプロセス

「元のスタジアムは鉄筋コンクリートで作られたデザインでしたが、Inspireでモデルを確認すると重く感じられ、最初のコンセプトとは全く異なる新しいコンセプトを目指しました。元のデザインはすでに確立された構造をしているので、構造的にはより優れていますが、美的な限界を必ずしも押し広げるものではありません。

このプロジェクトで、トポロジー最適化はコンセプトを生み出すことはできるが、デザイナーの代わりにはならない、ということを示したかったのです。ジェネレーティブデザインは、デザイナーをデザインから排除しているように感じられるかもしれませんが、実際には、デザイナーが持つ創造的能力を強化しているのです。この技術により、デザイナーは新しい形状を探求できるだけでなく、理論的には構造的にも問題のない『既成概念にとらわれない』構造デザインを生み出せる可能性があります。」

鉄筋コンクリートを使ったスタジアムの解釈

鉄筋コンクリートを使ったスタジアムの解釈

材料のコストと性能のトレードオフ

「デザイン初期段階に選択した素材が最終デザインになるとは限りません。例えば、イギリスのサッカースタジアムのような伝統的なスタジアムや、中東のスタジアムのような有機的なスタジアムなど、様々な希望のスタイルがある一方、素材を変更して性能や剛性を向上させる、コストを改善するなどのトレードオフもあります。材料よりも製造上の制約が最適化の結果に影響を与えることもあります。この段階では、材料がどこにどのくらい必要なのかを大まかに判断しようとします。今回のスタジアム再設計では、こうした構造的な洞察を非常に直感的に得られました。

非常に進歩的なデザインを作ることはできますが、その場合、構造的な整合性が取れない可能性があります。例えば、ある長さの柱やカンチレバー(片持ち梁)を作るには、材料や時間、規制の問題で不可能な場合があります。

設計が詳細になればなるほど、さまざまな制約が出てきます。初期段階でシミュレーションを行うことで、およそ実現可能と分かるアーティスティックなビジョンや形状を描くことができ、下流工程で芸術性を損なうような大きな妥協をする必要がなくなります。

デザインの限界に挑戦し、さまざまな素材やデザインで何ができるかを考えることは重要ですが、クリエイターは、オリンピックスタジアムがその国の文化や技術の進歩を表現するメディアであることを念頭に置かなければなりません。ですから、その国の文化は、その国のライフスタイルの象徴として、オリンピックのために一丸となることを第一に考える必要があるのです。

Inspireのようなツールは、このようなプロジェクトのコンセプト作りに役立つと思います。というのも、設計ミスや作業の破棄といったコストのかかるリスクを回避しながら、迅速にコンセプトを作成することにメリットを感じるからです。」

トポロジー最適化結果から得られたスタジアムの支柱に注目 

「一般的に、スタジアムを設計する際には、構造的な安全性、アクセス性、コストなど、いくつかの必須設計要件があります。今回、コンセプトの段階で私が注目したのは、支柱でした。なぜなら、この画像のようなフロアとフロアをつなぐ支柱をイメージすることは、ほとんど不可能でしたし、こうした多様な形状を創造する可能性に魅力を感じました。

1つ目と2つ目のリングを上に向かって見ると、45度の傾斜がついています。これは、超高層ビルの特徴である、床がどこかでずれたり崩れたりしないようにするための傾斜です。これはコンセプトレベルでは思いつかないことであり、シミュレーションやジェネレーティブデザインが設計者の力を次のレベルに高めてくれる部分です。荷重を設定すれば、技術的には非常にユニークな形状や構造の提案が可能になります。」

Inspireの技術により、大型構造物の有機的なジェネレーティブデザインが可能に

Inspireの技術により、大型構造物の有機的なジェネレーティブデザインが可能に

スタジアムデザインで重要な安全性

「建築家、デザイナー、エンジニアが重視すべきは安全性です。スタジアムのような建築物では、地震動や、踏みつけやジャンプなどの動作による誘導振動を考慮し、それらの動作がいつ、どのように構造に影響を与えるかを評価しなければなりません。毎年何千人もの人が、自分のチームが試合に勝ったことで歓声を上げたりジャンプしたりする可能性があるため、そのような状況で発生する荷重を考慮する必要があります。InspireのSimSolidソルバーでは、複雑な構造でも数分で解析できます。」

お気に入りのオリンピックスタジアム

「フレイ・オットーによる1972年のミュンヘンオリンピックスタジアムが好きです。湖や風景を取り込んだ美しいデザインで、構造物の屋根はスチールロープでできており、上部にはガラスパネルが設置されています。本当に荘厳な建築物ですね。オットーは軽量のデザインやプロトタイプを作ることで知られていましたが、彼らは当時としては野心的なデザインを大胆に行い、センスと非常に強い技術的背景を持っていました。」

ミュンヘンオリンピックスタジアム

ミュンヘンオリンピックスタジアム

土木・建築におけるシミュレーションの現状と未来

「CAEは、3D構造設計と最適化を中心に大いに活用されていると言えるでしょう。オリンピックスタジアムレベルの仕事をしている企業は、すでに経験とツールを持っていて、風洞実験や耐震設計などの業界基準をリードしていると言っても過言ではありません。

CAEは、大規模な建築プロジェクトのワークフロー合理化により大きな役割を果たすと思います。建築プロジェクトは純粋に規模が大きいため、これまでの仕事を無駄にせずに設計変更する方法を必要としていて、例えば、10段階のプロセスの途中で設計更新が必要になった場合、必要に応じて変更を加え、かつ残りのプロセスを自動で更新するツールが必要になります。それは材料の変更かもしれないし、プロジェクトの期限直前に起こるかもしれません。オリンピックでは、開会式の24時間前に建造を終えることもあるほど時間にシビアです。美観上の変更のせいで、モデルの変更や細かな手作業を行い、エンジニア、コンサルティング、そしてプロジェクトチーム全体のコスト増を招くようなことはしたくはありません。

異なるプラットフォーム間でのデータのやりとりについては、CAEがますますスマートになっていると思います。企業は、共通の設計上のボトルネックを回避するために、多くの費用を投じていますが、それはテクノロジーの互換性を求めているからです。Altairでは、構造解析や最適化に必要なすべてのツールを1つのプラットフォームで利用できるだけでなく、CADとの完全な連携やモデル転送のソリューションにも強みがあります。」

シミュレーション主導の設計による建築構造の改善についての詳細は、建築・土木エンジニアリング・建設(AEC) をご覧ください。

 

*本記事は、米国本社の「Modern Stadium Design Inspired by Topology Optimization」を翻訳したものです。

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カテゴリー: Innovation Intelligence Global, 事例

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