脳内イメージからの流れを止めない – Nothing Between You and Your Design

本記事は、『Innovation Intelligence』の投稿文に、HyperWorks Insiderのために加筆されたものの翻訳です。

時代は変われど・・・

数年前になりますが、史上初の連続飛行マシン発明に至るまでの間にライト兄弟が残した、あらゆるメモ書き、手紙、計算式などを集めた本を読みました。この手記を読んでいて衝撃だったのは、彼らは現代のエンジニアや設計者とほとんど同じだということです。当時はコンピュータもシミュレーションもありませんが、良いエンジニアが持つクリエイティブかつ分析的な発想力は同じなのです。コンセプトモデルを作り、物理特性を理解して詳細設計に活かせるようになるまで何度も改良するプロセスを実践していました。

Wilbur Wright

ウィルバー・ライト(兄)

Orville Wright

オーヴィル・ライト(弟)

First successful flight of the Wright Flyer. The machine traveled 120 ft. in 12 seconds at 10:35 AM at Kitty Hawk, North Carolina, 1903.

ライトフライヤー号の初飛行。1903年12月17日にノースカロライナ州キティホークで
12秒間120ft(約36.5m)の飛行に成功した。

もうひとつ衝撃的だったのは、その期間です。飛行とは何かということさえ知らないのに、たった4年で実際に“飛ぶ”ところまでたどり着きました。その4年間に、風洞設備をつくり、翼理論とプロペラ理論を提唱し、大変軽いエンジンを設計・製造し、たわみ翼をもつ軽量かつ操縦可能な機体を生み出し、三軸制御を発明しています。彼らの革新力は、速さも領域の広さ・深さも抜群といえます。

The Wrights’ airfoil was a product of extensive wind tunnel testing.

ライトの翼は風洞実験を繰り返して生まれた。

The Wrights patented their wing warping mechanism to control roll.

ライトのロール制御のためのたわみ翼のメカニズムは特許登録された。

First true aircraft propeller using airfoil technology derived from their wind tunnel testing.

プロペラのデザインに風洞実験で得られた翼のテクノロジーが活かされる。

CADやCAEに携わる人ならば、もしもライト兄弟が現代のソフトウェアを使えたとしたらどうしていたか気になると思います。もしかすると、複雑なテクノロジーとツール、頭の中にあるビジョンとのギャップに彼らのイノベーションが止まっていたかもしれません。

現在、エンジニアリングソフトウェアは不可欠で意味があるということは自明ですが、習得の壁、専門性の壁が立ちふさがっているのも事実です。これは現代のエンジニアリングの要求とのトレードオフの関係かとは思いますが、シミュレーションと最適化の技術をもっと簡単に習得できて使えるものにしなければならないのもまた事実です。

デザイン、シミュレーション、最適化ソフトウェアのユーザーエクスペリエンスを向上させるというのは、単純にマウス移動を最小限にし、メニューを更新すればよいというものではありません。人間の心理や創造のプロセスを理解して、ソフトウェアにインテリジェンスを組み込むことが必要です。アプリケーションに関する知識をソフトウェア側に入れてしまえば、ツールの複雑さに気をとられることなく、思い描いているものを形にすることに集中できます。

複雑を簡単に見せる

ユーザーインターフェースが使いやすくなったとしても、解析を行うために必要な知識を習得する必要があります。実際、ソルバーを効果的に使いこなせるようになるためには数年かかります。ところが、ソルバーを使いこなすために必要な知識の大半は、エンジニアリングの際には不要なこともあります。(ソルバーによる対象物の理想化、制限、データ構造、ソリューションコントロール、APIなど・・・)熟練ユーザーはこれらのシミュレーションに関する知識を網羅する必要がありますが、一方で、ソルバーに関する知識が必要最低限で済み、ユーザーインターフェースが業務プロセスに沿ったものであれば、もっと多くの人が特定の解析アプリケーションを使えます。このため、弊社は包括的なモデリングソフトに加えて、“特定の(vertical)”あるいは専門領域のためのソリューションを開発しています。下図にあるVirtual Wind Tunnel(VWT)がその一例です。VWTの複雑なソルバーそのものをほとんど意識することなく、車両を風洞に配置すれば、設計者でもエンジニアでも最先端のCFD解析を実行できます。

Example of sophisticated simulation made simple to use in Virtual Wind Tunnel.

Virtual Wind Tunnelは最先端のシミュレーションを簡単に実行。

ソフトウェア開発者ではない各分野の専門家による速やかな開発を支えるため、モデリングソフトは、スクリプト記述以外に、ドラッグ&ドロップでも設定できるようになっています。

90%ルール

総合的かつ複雑なエンジニアリングソフトウェアとはいえ、ユーザーは、大半の時間、ほんの数パーセントの機能しか使っていません。これを私たちは90%ルールと呼んでいます。すなわち、ユーザーの90%の時間が、全機能の10%に注がれている、ということです。つまり、その10%の機能を簡単かつ効率的にし、ユーザーの“探す”、“理解する”、“使う”といった行動を妨げないようにする必要があります。現在、大きなツールパレットやたくさんのオプションは、極小パレット、シンプルなガイドバーに取って代わられ、ワークフロー上よく使われるメニューだけが並んでいます。

Example of guide bar, which walks a user through the essential steps in a workflow.

ガイドバーの例。
ワークフロー上必要な工程をナビゲート。

Example of micro-dialog that contains only the most-used controls for a tool.

極小パレットの例。
よく使われるコントロールのみ表示される。

流れを妨げない

ゲーム、音楽、スポーツ、芸術、そしてエンジニアリングに没頭しているとき、人は“流れ”を壊したくない、と思うのではないでしょうか。それが集中しているときの心身の状態で、外界をシャットダウンし、ほとんど自律的になります。些末な物事はある程度無視して、全体像あるいは課題解決に意識を向けています。言葉ではなくコンセプトで考えているのです。この状態は、受容力、洞察力、生産性を上げ、時間を忘れ、大きな達成感を生みます。

pianist

良いユーザーエクスペリエンス デザイナーならば、この心身の状態を助長させるためのソフトウェアを考えなくてはなりません。手と目の動きをスムーズにすること、大まかな運動(Gross motor)から細かな運動(Fine motor)への急な変更を最小限にすることは基本です。マウスとキーボードを頻繁に行ったり来たりするのもだめです。図の中の細かな部分を選択するときは、その周りに適切な許容範囲があったり、ホバーさせたときにハイライトされると狙った場所の選択が楽にできます。また、スマホアプリの良いものにはシンプルなスワイプ動作と、片手、一本指、もしくは親指一本で操作可能で、負担が少ないものが多いです。ところで、iPhone上で、虫眼鏡状態でテキストカーソルを合わせるのが難しいと感じませんか?それは集中力を要する細かな運動モードに急にシフトし、流れが止まったからなのです。

phone

できればすぐに使いたい

たいていの人は、新しいソフトウェアを手に入れたら、マニュアルを読まずにすぐに使いたいと思います。家の修繕や、車の修理、楽器の演奏などをしたいと思ったらまずどこから手を付けるでしょうか。YouTubeで短いチュートリアル動画を見る人が多いのではないでしょうか。ということは、できるだけたくさんのインストラクションをYouTubeのような動画共有サイトに投稿し、見つけやすく分かりやすい状態にしておくのは効果的です。

MicrosoftのPaperclip(英語版Windowsに搭載されていたオフィスアシスタント。日本ではイルカのキャラクター。)のように、先回りするアシスタント機能は、数年前あまり受け入れられませんでした。今、新しいワークフローに即した細やかで適切なアシスタントが望まれています。

OSはたいてい標準的なユーザーインターフェースなので楽に操作できます。大変なのは、課題解決のために各ソフトウェアのさまざまな機能を組み合わせ、そのそれぞれを習得しなければならないことです。これが一番サポートが必要かつ一番時間のかかるモデリングとシミュレーションの現状です。

fighter jet example

Altairの取り組み

シミュレーションツールによって生産性の急上昇を起こすには、すべてのエンジニアとデザイナーがシミュレーションと最適化技術を使えるようになる“追加レイヤー”をツールに付与することです。CAEスペシャリストではない人にとってのシミュレーション技術を、安全、シンプル、ロバストにすることは、次の世代の人たちが持つビジョンを実現することにつながります。

新しいHyperWorks

弊社は、上述のようなコンセプトをすべて取り入れてHyperWorksの最新版リリースに向けて開発を進めています。また、ワークフローも大きく改良しています。数年前、全ソフトウェアのユーザーエクスペリエンスを見直すためInspireの開発に踏み切り、今年、新UIを搭載したHyperMesh early-accessをリリースします。これにより、弊社のモデリング・ビジュアライゼーションソフトウェアはすべて統一されたlook & feelとなり、共通のワークフローを有することになります。ソフトウェア業界の流れを汲みながら、HyperWorksのUIを軸に開発を進めます。新しいワークフローはユーザーの作業効率を高め、HyperWorksの習得とHyperWorksを使用した業務をよりシンプルで楽しいものに変えていくことでしょう。同時に、従来のパネル操作画面もオプションとして残しますので、こちらもアクティベートして使うことができます。Altairは、作業効率を高め、見た目も良い次世代のグラフィックを常に開発し続けます。

以下は新しいHyperWorksのインターフェースです。私たちは新しいUIの開発に注力していますが、ユーザーの皆様にはこれまでどおり、課題解決に集中していただけるよう、この変化にあまり気づかれないことを望んでいます。

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カテゴリー: Altair Global Blog, Thought Leaders

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