*本記事は、米国本社のブログ『Innovation Intelligence』の投稿文を翻訳したものです。
*『Thought Leader Thursday』は、Altairの各分野のリーダーが毎週木曜日に『Innovation Intelligence』に投稿している、記事シリーズです。
既存設計をベースとして漸進的に改良を重ねていくか、それともゼロから新しい設計を手掛けるか、プロジェクトへのアプローチとしてどちらが優れているかは、エンジニアリング業界で長年議論されてきました。漸進的なアプローチでは費用やリスクの軽減効果が優れ、プロジェクト期間も短縮されます。こうした特徴はビジネスに有益です。一方、新規設計というアプローチは、設計の自由度とクリエイティブ性という点で有利です。また一歩上の性能を提供することができます。最近、この議論を思い出す出来事がありました。パリで開催されたEuropean Altair Technology Conference 2015において、Rolo Bikes社のAdam Wais氏を紹介する光栄な機会を得たときです。Adam氏は、プレゼンテーションの中で新たに立ち上げたRoloロードバイクの複雑な設計プロセスを詳しく説明しました。
基本に立ち返る: ゼロからの設計
ロードバイクの設計や自転車業界の知識がなく、当然ながらエンジニアとしての経験もない場合、あなたならどうしますか?Rolo Bike社には漸進的な改良の土台となる既存の設計も、こうした改良を積み重ねる知識やスキルもなかったため、残された道は、スクラッチで設計するアプローチだけだったと、Adam氏は語っています。その設計プロセスの第一歩は、自分たちの感性に従って、優れたロードバイクの設計に最も重要な要素を見極めることでした。それが以下の3要素です。
- フィット感
- ハンドリング
- 性能
次に同社は、自転車業界についてリサーチを行い、彼らの設計要素について記述している業界基準と仕様を特定しました。こうした努力の結果、以下のような業界最先端の性能目標を設定しました。
- フレーム重量: 750グラム以下
- ヘッドチューブのねじり剛性: 96 Nm/deg以上
- BB(ボトムブラケット)剛性: 65 N/mm以上
- シート剛性: 200 N/mm以下
フレーム重量は、ロードバイク全重量の大部分を占めているため、明らかに重要なメトリクスです。ヘッドチューブのねじれ剛性は、走行中のライダーが道路をどう体感するかを示すものなので、これもハンドリング要素にとって重要なメトリクスです。高いボトムブラケット剛性は、ライダーのペダルからリアホイールへの効率的なパワー伝動をもたらします。シート剛性は、ライダーの乗り心地の指標になります。
適正な目標値を掲げることができたと考えた矢先、こうした目標値を達成するバイクフレームの設計方法と製造方法について、チームはジレンマに陥りました。多数のフレームのプロトタイプを試作し、物理的試験を実施し、破壊するという業界標準のやり方は、彼らの時間枠と予算に見合わないとすぐに分かりました。
シミュレーションが主導する設計プロセス
Altairがプロジェクトに参加したのはちょうどこのタイミングです。Adam氏と彼のチームはAltairに連絡を取り、シミュレーション主導型の設計プロセスを導入し始めました。これは、自転車の標準開発プロセスに多数の構成部品の仮想開発と仮想解析を組み込んだものでした。わずか4ヶ月ほどで、Rolo Bike社とAltairのチームは、安全性、剛性、快適性のさまざまな試験に用いる仮想モデルを作り上げました。これにより、彼らの掲げる目標値に基づいてフレームを最適化するために、さまざまな変更案を取捨選択できるようになりました。しかもプロトタイプを一切試作せず行えたのです。その結果、構造的に効率性が高いだけでなく、空気力学的にも高効率なモノコック構造の複合材フレームに仕上がりました。
では、性能メトリクスという点で見たとき、この画期的な新鋭の仮想設計アプローチは、どのような結果を生み出したのでしょう?
- フレーム重量: 700グラム以下
- ヘッドチューブのねじり剛性: 97 Nm/deg
- BB(ボトムブラケット)剛性: 150 N/mm以上
- シート剛性: 160 N/mm以下
ここで何より大切なことは、このバイクが、外観も美しく、乗り心地も快適で、業界をリードする性能メトリクスを備えた受賞歴のあるロードバイクだということです。
ライダーにフィットするようバイクをカスタマイズ化
「世界最高のパフォーマンスを発揮するロードレースバイク」の設計と製作という目標の達成に加えて、チームはこれまで成し得なかったことも達成しました。それは、仮想設計ツールセット「virtual rigs」の開発です。これによってRolo Bikes社は、個々のライダー要件に合わせた新しいフレーム設計を迅速に解析・カスタマイズすることが可能になりました。このツールは、ライダーの体のサイズ、体重、好みの剛性および快適度に基づいて、個々のライダー向けのフレーム制作を本質的に完全カスタマイズできるものです。
シミュレーション主導型の仮想設計プロセスを使用することで、Rolo Bikes社は、漸進的な改良によるアプローチと新規設計によるアプローチとの双方の利点を実現しました。クリエイティブで高性能のロードバイクを、現行の業界設計サイクルと比べて4倍速く、より低コストな工程で開発できたのです。個々にパーソナライズして欲しいというライダーの要望がますます増えるなか、Rolo Bikes社にとって今回の開発は、こうした要望に応じる新たなチャンスを開拓し、サイクリング業界の成長を促すきっかけにもなっています。漸進的なアプローチか、それとも新しい設計のアプローチか、この二者択一しか頭にない人に対してRolo Bikes社ならこう言うでしょう。「両方選択してはどうですか?」
European ATC 2015でのAdam Wais氏のプレゼンテーションについては、以下をご覧ください。
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