*本記事は、米国本社のブログ『Innovation Intelligence』の投稿文を翻訳したものです。
*『Thought Leader Thursday』は、Altairの各分野のリーダーが毎週木曜日に『Innovation Intelligence』に投稿している、記事シリーズです。
製品の設計は、単に製造ジオメトリのドラフト作成だけに留まりません。製造可能性を理解する以外にも、機能、性能、破壊モードを徹底的に理解することが求められます。今日、コンピューター支援設計(CAD)は、ジオメトリだけでなく重要な製造情報やサプライチェーン向け情報のドラフト作成や保存にも使用されています。CADは製品定義や製造指示に関する究極の情報源ではあるものの、性能、破壊、製造可能性の情報は一切含まれていません。これらの情報を得るためには試作機を使いますが、エンジニアリングでのコンピューターの使用量が増えた現在では、実物よりも仮想の試作機が用いられるようになっています。このように仮想試作を行うことを、コンピューター支援エンジニアリング(CAE)と呼びます。
従来は産業の慣習によって、設計の検証と妥当性確認には仮想の試作機はあまり用いられてきませんでした。しかし計算シミュレーションは、仮想試験に限らず、もっと広範な目的のために活用することができます。勘に頼って設計を判断するよりも、シミュレーションを利用すれば、機能と性能要件の両方に基づいて合理的な設計判断を下せるようになるのです。設計の取っ掛かりには、既存の設計やスケッチのイラスト、機能アイデア、ジオメトリの設計空間などを使えます。そしてCADにも至らない構想の段階で基本的な性能を検討します。設計を進めるに従って仮想の試作機が仕上がっていき、ますます設計変更の主導権を握っていきます。これこそ、まさにシミュレーション主導の設計です!これは自動のプロセスではありません。人の手が必要になりますし、依然として判断が求められる場面もありますが、機能、性能、物理、外観に基づいてより合理的な決定を下せるようになるのです。
設計は、製造手法や材料から切り離して考えることはできません。現在では、新しい製造手法や材料の登場により、製造可能性の定義そのものも大幅に広がりました。たとえば3Dプリンティング技術では、新たな造形技術を利用してきわめて特殊な設計を作れば、格段に性能をアップさせることができます。それを従来の手法で再現するのは不可能でしょう。同じように、複合材の複雑なレイアップの設計というとてつもない難題を前にしては、人はコンピューターに太刀打ちできません。設計実験だけをとってみても、シミュレーションを用いれば、実機試作よりもはるかに効率的に、無数の設計変数を高速に処理することができます。さらに、逆算の手法を使えば、非常に細かい性能要件を満たすように複合材の設計を調整することさえも可能です。シミュレーション主導の設計をうまく応用することによって、こうしたどんな課題も難なく対処することができるのです。
1980年代、私は当時東ドイツにあったロストック大学の教授でした。そのとき、東ドイツ政府の造船所がソ連に対し、達成困難な価格で船を売ることに合意してしまうという事態が発生しました。私は構造最適化を専門にしていたため、性能を維持しつつコストを削減するための案について助けを求められました。当時利用できた最高のツール、つまり最適化理論と手計算のおかげで、最終的にはハルとストリンガーの組み立てコストの削減に成功しました。しかしそこに至るまでには、窓なしのアパートの一室に他の教授2人と数週間住み込み、毎日、日が昇る前に造船所の門をくぐっては、バルト海から吹く厳しく冷たい風にさらされながら朝の6時から身を粉にして計算に取り組まなければならなかったのです。退屈な手計算を手っ取り早く終わらせる望みは、ほとんどありませんでした。
今なら、当時と同じ造船所の仕事を任されたとしても、有限要素モデルを素早く作成し、剛性の維持、材料使用量の削減、コストの最小化という条件で最適化したストリンガー構造を開発できるでしょう。シミュレーション主導の設計を活用すれば、ほんの数日間で、数週間かけて“何かを直す”計算で得られる結果よりも優れた設計を実現することができます。若かりし教授時代の自分が、もし今日のツール一式が使えたら、それほど素晴らしいことはなかっただろうと思います。
設計とイノベーションに関してもうひとつ重要なことは、設計検討の2つの役割です。第一に、ある程度自明なことですが、形状・寸法・材料などの設計変数を増やせば設計自体への理解が深まり、結果としてより優れた製品に仕上がります。第二に、どの製品開発者も、製造にはばらつきが出る現実を受け入れなければなりません。これは文字通り、製造ラインから出てくる製品は設計とぴったり一致しないという意味です。このばらつきを理解し、定量化して、最終的にはばらつきを減らす設計にする必要があります。これらのどちらの設計検討も大変に複雑で、実物の試作機を使った一連の試験では到底対応できません。設計検討は、計算シミュレーションと人の推論で進める必要があります。
イノベーションをさらに推進するために、シミュレーションは次の3つの目標を達成する必要があります。
1.ソフトウェア自体が設計の方向性を実質的に決定し、意思決定を支えなければならない。このようにソフトウェアの情報に頼れば、効率のよい設計を決定できるだけでなく、設計プロセスを通して設計変更の結果を容易に推測できるようになります。非常に広く捉えた場合、最適化技術は設計の方向性の決定にも向いているのです。
2.設計に関わる複雑な複合領域の物理現象を、それに対応した広範なモデリング機能で精密にモデル化する。複雑な非線形のマルチフィジックスシミュレーションから製造可能性までのすべての物理現象を一つの高忠実度モデルで捉えることも、選択肢の一つです。しかしほとんどの場合、複雑さを減らしたモデルのほうが、性能と破壊をより深く理解することができます。そのため、シミュレーションソフトウェア製品群には、3Dモデリングのソフトウェアだけでなく、性能面の解析に特化した多様なツール(信号解析や物理モデリングなど)も含まれている必要があります。
3.計算効率の向上には、コンピューターとアルゴリズムの連携が必要。コンピューターアーキテクチャーの並列化が進むなか、そうしたアーキテクチャー上で実行するソフトウェアには、スケーラビリティとロバスト性が必須になっています。シミュレーション主導のイノベーションは、合理的な意思決定につながるデータを生む、膨大な計算にかかっているのです。設計の検討と発見を加速するには、ユーザーエクスペリエンス、計算リソース、そしてアプリケーションソフトウェアをエンドツーエンドのソリューション(あるいはアプライアンス)として考える必要があります。また、ソフトウェアライセンスも、こうした新しい現状を反映して進化しなければなりません。
まとめると、シミュレーション主導のイノベーションを実現する鍵を握るのは、最適化技術、さまざまな物理現象を捕捉する機能、計算性能の3つです。組織のCAEと全般的な製品開発改革を推進する戦略の一環として、この3つすべてを検討および導入する必要があります。エンジニアおよび製品デザイナーとして、ほんの2、30年前は想像もできなかったものを実現するために、可能な限り最善のツールを使用していくことが専門家としての責務だと考えています。
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