初めましてアルテアでインターンをしています。学部三年の赤川と申します。
CAEに関しては簡単に解析できる3DCADソフトのアドオン機能を利用して行ったことはありますが、HyperWorksのような専門的なソフトは使ったことはありませんでした。まだソフトの使い方を覚えたばかりの初心者なので、自分の練習もかねて簡単な形状のモデルで線形静解析を行ってみました。今回はその結果をお伝えしたいと思います。
穴の開いた板の応力解析(概要と条件)
図1のような直径20mmの円孔を有する帯板(厚み1mm)に引張荷重が加わる場合について解析し、応力集中部の応力を求めてみます。今回は3種類のメッシュを作成し解の収束を確かめ、また一次要素と二次要素についても比較してみます。メッシュ作成にはHyperWorks X、解析にはOptiStruct、そして結果の表示にはHyperViewを使用しました。
図1 解析モデル
また解析をするにあたって対称性を考慮し1/4のモデリングを行います。解析条件は表1のとおりです。
要素 | Quad4(詳細メッシュのみQuad4、Quad8) |
境界条件(変位) | 1/4モデル、左端x方向面拘束、下端面y方向面拘束 |
境界条件(荷重) | 上部に等分布荷重1N |
材料物性 | E=210Gpa, Nu=0.3(鋼材) |
単位系 | [㎜][Ton][s][MPa] |
表1 解析条件
3種類のメッシュを作成
メッシュは粗メッシュ、中間メッシュ、詳細メッシュと三種類作成しました。 まず粗いメッシュで全体の傾向を把握し、解析、詳細と要素を細かくしていきます。 要素形状にはQUADを使用しました。
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粗メッシュ 節点数:261 要素数:160 |
中間メッシュ 節点数:333 要素数:288 |
詳細メッシュ 節点数:1074 要素数:996 |
図2 Quad4での各メッシュ、境界条件図
粗メッシュで応力集中部を把握し、集中部の要素サイズを次第に小さくしていくという手順でメッシュを作成しました。
各メッシュの解析結果
鋼材は延性材料ですので応力はVonMises応力で評価していきます。まず粗メッシュの結果について見てみます。
図3 粗メッシュの変形図(x 1000000、左)と応力コンター図(右)
変形図ですが変形におかしいところがなく境界条件の設定に問題はなさそうです。さらにコンター図を見てみると円孔下部に応力集中部が確認できます。次に、この応力集中部の要素サイズを小さくしていき、中間メッシュ、詳細メッシュで応力を求めてみます。
図4 中間メッシュ(左)と詳細メッシュ(右)の変位図(x 1000000)
変位図を比較してみると、上端部での変位はどちらもあまり違いが出ておらず詳細メッシュの値が少し大きくなっています。また粗メッシュと比較しても大きく違いがないことがわかります。
図5 中間メッシュ(左)と詳細メッシュ(右)の応力コンター図
応力について見てみると、応力集中部の変化はあまりありませんが粗メッシュと比較するとかなり大きく変化しています。二つを比較して応力集中部の要素数を細かくしても応力値は発散せず収束していると考えられるので詳細メッシュで解が求められたとしました。
要素次数を変更してみる
次に詳細メッシュに関して要素次数を変えて比較してみたいと思います。要素次数は増加すると節点数が増加し計算時間が増加するというデメリットはありますが精度の向上という観点からQuad4、Quad8での解の精度を比較してみます。
Quad4 | Quad8 | |
節点数 | 1071 | 3143 |
表2 Quad4、Quad8での節点数
図6 詳細メッシュの要素次数での変位比較
図7 詳細メッシュの要素次数での応力比較
二次要素のほうが応力変位ともに大きくなることがわかりました。
理論値と比較してみる
次に、理論解から精度を比較してみようと思います。今回解析した円孔付き帯板は図8のグラフより応力集中係数が求められ、今回の場合その値はおよそ2.32となります。応力集中係数を用いて解の精度を比較してみたいと思います。表3に結果を示します。
図8 円孔付き帯板の応力集中係数1)
中間メッシュ | 詳細メッシュ(Quad4) | 詳細メッシュ(Quad8) | |
節点数 | 333 | 1071 | 3143 |
最大応力(MPa) | 0.1065 | 0.1122 | 0.1124 |
応力集中係数 | 2.13 | 2.24 | 2.25 |
誤差率(%) | 8.18 | 3.28 | 3.10 |
表3 各解析についての精度
以上の手順で円孔付き帯板の応力集中部の応力を精度よく求めることができました。
初めての解析で境界条件の設定やメッシュの作成などなかなかうまくいかないこともありましたが理論解に近い値を解析により出すことができました。メッシュの細かさが解に与える影響は大きいようです。細かく、要素次数も大きいものにしていけば精度はでますが、実際の設計においてはさらに複雑なものになっていくので、計算時間なども問題になっていくかと思います。今回であれば円孔部にワッシャー部を作成するメッシュの作成には様々な手法があり、メッシュをいかに効率よく作成するのかがカギになるのではと思いました。これから多くのことを学んでいければと思います。
(ここから2019/12/16追記)
等分布荷重の等価節点力の設定方法
前回解析したものは荷重の境界条件の設定に誤りがありました。
有限要素法は節点に荷重を設定します。節点にすべて等しい値の荷重が作用していれば等分布荷重になるのではと誤解していました。しかし等分布荷重が作用していれば荷重が作用している辺は均一に変形するはずです。解析結果を見ればわかるように、すべての節点に同じ荷重を作用させるようでは等分布荷重を表現できていないことがわかります。図9に前回の解析での上端部の変位の様子を載せます。
図9 間違った境界条件での上端部の変位(左:Quad4 右:Quad8)
正しい等分布荷重の設定方法はすべての「要素」に等しい荷重をかけるという考え方になります。要素ごとに等しい荷重をかける場合Quad4、Quad8では以下のようになります。図10にモデル図を図11に実際の境界条件を載せます。
図10 モデル
図11 要素次数ごとの等分布荷重(左:Quad4 右:Quad8)
この要素を足し合わせていくと等分布荷重になります。このように境界条件設定しなおして変位と応力を比べてみます。
図12 正しい境界条件での上端部の変位(左:Quad4 右:Quad8)
正しい境界条件ではきれいに変位しました。
前回の間違えている境界条件と今回の正しい境界条件での応力値の比較
境界条件 | 中間メッシュ | 詳細メッシュ(Quad4) | 詳細メッシュ(Quad8) | |
最大応力(MPa) | 誤 | 0.1065 | 0.1122 | 0.1124 |
正 | 0.1065 | 0.1122 | 0.1124 |
表4 各解析についての精度
今回は荷重をかけた場所と応力が集中する場所が離れていたため最大応力に影響は生じませんでした。しかし荷重をかけた場所とはなれていないと結果は大きく変わってきてしまいます。
小さなモデルではどのように影響がでるのか見てみます。
要素 | Quad4 |
境界条件(変位) | 1/4モデル、左端x方向面拘束、下端面y方向面拘束 |
境界条件(荷重) | 上部に等分布荷重10N |
材料物性 | E=210Gpa, Nu=0.3(鋼材) |
単位系 | [㎜][Ton][s][MPa] |
表5 解析条件表
図13 モデル図
図14 変位(左:誤、右:正)
図15 ミーゼス応力(左:誤、右:正)
応力分布図を見てみると正しい境界条件と間違った境界条件ではかなり大きな差があることがわかります。間違った境界条件では応力値が場所によって小さく出てしまうなど誤った情報を得てしまうかもしれません。
以上のことから境界条件が少し違っただけで結果に大きな変化ができてしまうことがわかりました。
今回の間違いで有限要素法解析においていかに境界条件が大事か理解することができました。まだまだ有限要素法については勉強し始めたばかりですが様々なことを学んでいけたらと思います。
参考文献
1) KIT情報科学センター-6章応力集中部とき裂 http://www.cis.kit.ac.jp/~morita/jp/class/FracStrength/6.pdf
2) 泉聡志、酒井信介 理論と実務がつながる有限要素法シミュレーション 森北出版株式会社 2017 p.43
