高層ビルから落としたコインの衝撃で人は死ぬのか、流体解析と衝撃解析で検証してみた

身近な科学検証シリーズ

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*本記事は、米国本社のブログ『Digital Debunking』の投稿文を翻訳したものです。

 

こんな言い伝えを聞いたことがあるでしょうか。

1¢(セント)の小さなコインを高層ビルから投げ落とすと、コンクリートの地面に埋まったり、タイミングによってはその衝撃で通行人を殺したりすることがある”

 

ニューヨーク市にあるエンパイアステートビルの展望台は地上86階、高さ320メートルあります。コインが重力によって落下速度を上げるには十分な高さがあるため、誰かに落下したコインが当たった場合、どのような影響があるでしょうか?

不慮の事故を避けるため、わたしたちは高層ビルの近くを歩くときはヘルメットのようなもので頭部を保護したほうがよいのでしょうか?それともただの言い伝えなのでしょうか。

 

アルテアのオフィスには、この謎について自ら実験し解明したいと手を挙げる勇者がいなかったため、わたしたちは自社のシミュレーションソフトウェアを使い実証することにしました。

 

落としたコインが重力によって急速に落下する間、コインが空気分子と衝突することによって生じる空気抵抗と抗力について考える必要があります。落下速度が速くなるほど抗力との接触が増え、次第に物体の落下速度はゆるやかになります。重力と抗力の相互関係によって、地面に衝突するまでの終端速度と最高速度が決定します。落下中のコインの動きを示すため、Altair AcuSolveという数値流体力学(CFD)ソフトウェアを使用しました。

CFDで落下中のコインへの抗力をシミュレートし、コインがどのように回転するか計算できます。落下中に発生するあらゆる要因、たとえば力、投げられ落ちる方向、風、上昇気流、空気中の水分量などが回転に影響するため、このシミュレーションは起こりうる無数の落下パターンのうちのひとつにすぎません。

 

このシミュレーションでは、自由落下する場合のコインをモデル化し、抗力、空気抵抗を抽出することで終端速度を最高38mph(61 kph)と算出しました。

 

終端速度が決まれば、真実の解明までもう少しです。

コインを速度38mph(61 kph)で頭部のダミーに衝突させ、有限要素解析ソフトウェアであるAltair Radiossでその衝撃の大きさを計算します。

 

1/1000秒でコインはダミーに衝突し跳ね返り、約350ニュートンの衝撃が生じました。

NASAのレポートによると一般男性は1000ニュートンの力でパンチできるため、 350ニュートンの衝撃は痛みこそあるものの、大きな損傷とはなりえません。The Journal of Forensic Sciencesの研究では、コインと同じ重さの球の場合、167.8mph(270kph)の速度で人間にぶつかると皮膚を貫通するとしています。傷になることはあるかもしれませんが、高層ビルから落下した速度38mph(61kph)のコインによって頭部に切れ目が入ることすらないでしょう。

また、頭部への衝撃でコインが跳ね返るまでの0.5ミリ秒間で、計算された最大加速度は7.5Gでした。自動車の衝突テストでは、通常3ミリ秒間に80G以上の衝撃を頭部に与えないことをターゲットとしているため、このシミュレーションで測定した0.5ミリ秒間の7.5Gはとても小さく、大きな損傷とつながる可能性は低いです。

コインの落下速度が遅いことを示したCFDでモデル化された抗力によって、高層ビルから落としたコインが通行人に致命傷を与えることはないと判明しました。


これで安心してニューヨークの街を散策できますね。ただ、ニューヨークで最も注意が必要なことはこれだけではありません。頭上の鳩にも要注意!

 

デジタルで真実を暴く:高層ビルから落としたコインの衝撃で、人は死ぬ?

 

 

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カテゴリー: Altair Global Blog, 身近な科学検証

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