デジタルで真実を暴く:氷山ポスターは正しいか?

水上に見えている氷山は全体の10%程度と言われています。このことは、目に見えている成功と見えない努力を表す例えとして、海外ではポスターなどでよく使われています。成功の影には他人からは見えない様々な要因が隠れているのだ、という下図のようなポスターを見たことはありませんか?

科学者やエンジニアは、この絵に何か違和感を覚えるかもしれません。氷山が浮いているイメージは、物理学的に裏付けられているのでしょうか。それとも、この啓蒙ポスターは、ずっと間違っているのでしょうか。

「氷山の一角」という比喩は、きちんと科学に基づいています。氷の密度は海水の10分の9であるため、氷山の約90%が水面下に隠れているのは事実です。しかし、問題はこの向きで浮くのかどうかです。

アイスのコーンのような形をした氷山のように、およそ均一な密度を持つ非対称な物体は、おそらく垂直方向には静止しないでしょう。プールヌードル(棒状の浮き輪)が上下ではなく水平に浮くのと同じように、氷山もその質量を最も均等に分散させるように、おそらく水平方向に静止すると考えられます。

手元に氷山型のプールグッズがないため、次善の策として数値流体力学(CFD)ソフトウェアを使ってこの仮説を検証することにしました。3次元の仮想氷山モデルとAltair CFDTMを使って、この氷山が静止する向きを調べます。

今回は粒子法(SPH)ソルバーを選択しました。Altair CFDには汎用のナビエ・ストークスソルバーと、ラティス・ボルツマン法(LBM)ソルバーもありますが、氷山の詳細な形状と水との相互作用をシミュレートするには、メッシュベースの手法よりもSPHの方が優れています。SPHは粒子ベースの数値解析手法で、大きな変形の影響、動く境界線や自由表面などを伴う流れのモデル化に優れています。SPHの実用的な応用例としては、ギアボックス内オイルフロー、ノズルシミュレーション、混合、ウェーディング、スロッシングなどがあります。

また、SPHはGPU上でも十分にスケーリングできるため、複雑な形状の流れのシミュレーションをCPUベースの有限体積コードよりも高速に行えます。今回のモデルは大規模であるため、GPUベースのSPH解析の速さは重要でした。

氷山は長さ447m、幅382m、高さ646mの大きさで、その重さはなんと2900万トンにもなります。参考までに、ギザの大ピラミッドは600万トンと推定されているので、この氷山の質量は世界の奇跡の4倍以上になります。海水の密度は1027kg/m3(北極海の水)、海氷の密度は900kg/m3と仮定しています。その結果、氷山の体積は3,230万立方メートルとなります。つまり、これが動くとなると、大きな波紋が広がることになります。

デジタルで真実を暴く:氷山ポスターは正しいか?

コンスタンチン・オス氏による氷山モデル

ケースセットアップ

私たちは、一般的によく描かれている形状、つまり2つの円錐が共通の底面でつながっているような形状を採用しました(図1参照)。

図1:氷山の初期位置。軸はXとYの座標をメートル単位で示している。重力はY軸の負の方向に作用している

図1:氷山の初期位置。軸はXとYの座標をメートル単位で示している。重力はY軸の負の方向に作用している

周期的な境界条件を持つ1200 x 1200 x 700mのプールに氷山を適当に置いてみました。初期位置は、一般的な1対9の割合を考慮しました。初期の力や速度は割り当てず、最初はすべてが完全に静止しています。

使用した粒子の解像度は3mで、粒子数は約3630万個になりました。粗いと思われるかもしれませんが、この例題は氷山の安定性を評価することであり、細かな流れを再現することではありません。

プリプロセッシングの設定はすべてAltair SimLabTMで行いました。質量の計算、重心の位置、慣性モーメントなどの物理的特性を簡単に定義できます。プリプロセッシングに要した時間は、全体で約30分でした。

その後、Altair CFDのSPHソルバーを使用してシミュレーションを実行しました。このシミュレーションは、様々な物理的特性のスケール差が単精度では処理しきれず、倍精度を必要とした珍しいケースでした。

対象が大きいため、氷山の動きが落ち着くまでに数分間の物理的な時間が必要になりそうです。5分間の物理的な時間をシミュレートすることにし、1台のGPUノードで36時間かかりました。

結果

予想通り、氷山の最初の姿勢は不安定でした。氷山は上昇したあと、横に反転します。シミュレーション(5分間の物理的な時間)の間、氷山は落ち着こうと動き続け、安定した姿勢/位置はすぐには見つかりません。しかし、最初の2分間で大きな動きがありました。氷山の質量中心(CoM)のY座標のプロットを見てください。CoMの初期位置は333mで、393m付近で安定しています。図3に最初の80秒間の画像を示しました。安定する前の、最もダイナミックに動いたシーンです。

図2:氷山の重心のY座標。初期位置は333m、おおよその安定位置は393m付近

図2:氷山の重心のY座標。初期位置は333m、おおよその安定位置は393m付近

 

図3:最初の80秒間の氷山の動き

図3:最初の80秒間の氷山の動き

5分間のシミュレーションのフル動画は以下をご覧ください。ハードディスクの容量を考慮して、出力は1秒間に25フレームとしました。つまり、この動画では、5分間の物理的な時間が12秒に圧縮されています。巨大な氷山にしては動きが速すぎると感じたら、左上の時刻を確認してみてください。

 

 

さらにこの結果を分析したところ、このような巨大な氷山が動くと、高さ10mを超える波が発生する可能性が高いことがわかりました。詳細な飛沫や正確な波の高さは、解像度が低いために十分に再現されていませんが、桁違いの大きさの飛沫の発生が予想されます。

さらに興味深いことに、速度分布を見ると、氷山が沈む間に氷山の下に大規模な高速流が発生していることがわかります。この流れは、氷山から海底に向かって約5m/sで伝わり、海底にぶつかると分散します。この流れは、逆キノコ雲のような形をしています。250秒時点の3Dビューもその下の動画で見ることができます。

 

 

最終的に巨大な氷山は、ポスターに描かれている姿とかなり異なる方向で安定し、一般的なイメージを覆す、最初の仮説を裏付ける結果となりました。今回の氷山の劇的な方向転換は、あくまでも仮に作った例題ですが、北極や南極の棚氷が割れて巨大な氷山が崩れ落ちるときの現象も同じようなものかもしれません。

ところで、もしタイタニック号の操舵室に正確な啓蒙ポスターが貼られていたら、悲劇は避けられたのでしょうか?それはわかりません。しかし、流体力学シミュレーションソフトウェアを使用すれば、製品のエンジニアやアナリストは、複雑な形状の周りの流れをより正確に予測することができます。自動車、航空宇宙、重工業のパワートレインシステムなどのドライブトレインコンポーネントのような高額な製品の開発を当て推量で行ったり、なんでもかんでも試作機をつくるといったことから解放されます。

詳しくは、熱・流体解析(CFD)のページをご覧ください。

デジタルで真実を暴く:氷山ポスターは正しいか?

 


関連する APA 情報

*本記事は、米国本社のブログ『Digital Debunking: Has the Motivational Iceberg Poster Been Lying to Us?』の投稿文を翻訳したものです。

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カテゴリー: Innovation Intelligence Global, デジタルで真実を暴く

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