デジタルで真実を暴く:騒がしい隣人のジレンマ

アパート暮らしは都心に近い利便性、共有設備の利用、一戸建てに比べて安価な住居費など、多くのメリットがありますが、他の入居者によってある問題が浮上することがあります。交通や隣人の騒音、薄い壁や床を通す足音などです。

様々な人が入居する建物において騒音は大きな問題です。機械系エンジニアであれば、「シミュレーション主導の設計手法」で、実際のテストを行う前に音響減衰対策を評価し、この手の問題を簡単に軽減できます。

音対策は実は単純ではなく、防音材を増やせば良いとは限りません。質量と建築コストを過剰に追加しても、問題を解決できない場合があるのです。シミュレーションソフトウェアを使用することで、音の周波数を正確に調整し、材料を選択、比較して、防音ソリューションの構造を最適化し、居住者に最大限の快適さを提供できます。

今回の「デジタルで真実を暴く(Digital debunking)」シリーズでは、どのようなデザインや素材がマンションやアパートの音響効果を高めるのか、AlphaCellのシミュレーション技術を用いて、映画「エース・ベンチュラ」の人気シーンを検証することにしました。

二重窓の防音効果はどれくらいなのか?


“Ace Ventura Sliding Door,” YouTube, uploaded by 5MinuteEarth, June 4, 2010.

ジム・キャリー演じるエース・ベンチュラは、引き戸が二重ガラスでできているため、ドアが閉まっていればバルコニーで被害者が助けを求める悲鳴に隣人は気づかなかっただろうと、刑事たちに指摘しています。そこで、二重窓ガラスが一重窓ガラスに比べてどれだけ音が減衰するかを調べ、映画が防音性能を誇張しているかどうかを確認してみます。果たして二重ガラスは、ベランダからの叫び声を消すほどの防音効果があるのでしょうか?

ガラス戸を閉めたときにエース・ベンチュラの声が完全に消えたのは、エンターテインメントとして誇張されたものだとも、ガラス戸のデザイン上、音の大部分が消されたとも、考えられます。録音された人間の悲鳴の平均値から、エース・ベンチュラの悲鳴は約200Hzと推定されています。今回の調査では、人間の耳で認識できる代表的な周波数帯である200Hz〜1000Hzを対象としました。

Matelys社が開発したAlphaCellで作成した下の図によれば、音の周波数が高いほど遮音性が高いことがわかります。二重ガラスの効果を調べてみると、単層ガラスに比べて音の振動の大部分をガラス越しに防ぐことができますが、向上するのは、およそ300Hz以下と500Hz以上の特定の周波数範囲に限られます。

AlphaCellのシミュレーション結果は、安全ガラスの周波数別等価損失を示している

AlphaCellのシミュレーション結果は、安全ガラスの周波数別等価損失を示している

300Hz付近で急激に遮音効果が落ち込みますが、なぜそれより低い周波数帯で遮音が成功するのか、AlphaCellチームに尋ねました。教わったのは、1枚板の構成から中間のエアギャップを持つ2枚板になると、システムの挙動が変わり、質量-バネ-質量のシステムとして振る舞うということです(2つの質量は窓ガラスで、バネは中間層の空気です)。音の波長がシステム全体の厚さよりもはるかに大きい低周波では、音はシステム全体を覆い囲むことになり、その挙動は全体の質量に支配されます。

数字をドラッグできる動的な画像です。

2枚の窓ガラスの間のエアギャップの厚さも遮音性に大きな影響を与えます。上図左の「Air gap thickness XX mm」のXXの部分をスライドしてエアギャップの厚さを変更すると、右のグラフが変化し、音の透過損失が一定の周波数で大きく変化することがわかります。これは、材料を追加しても、必ずしも音響戦略の性能が向上するわけではないという原則を示しています。

このような知見を早期に得ることで、エンジニアは設計戦略を立て、バーチャルモデル上でフィードバックを得ながら最適化できるのです。ガラスの引き戸の遮音レベルは、ドラマチックな演出のために効果が増幅されていましたが、シミュレーションを用いれば、建造物の振動音響応答をより簡単に調べることができます。

ベンチュラは裁判に勝つために、特定のピッチを選んで「二重防音ガラス」の効果を実証したとも言えるでしょう。もっと高い音程を選択していたら、音の透過損失と周波数の関係から、彼のデモンストレーションは成功しなかったかもしれません。

興味本位で、ディレクターズカット前のエース・ベンチュラの叫び声が一枚ガラスのドアの向こうでどんな風に聞こえたのかをシミュレーションしてみました↓

 

こちらは二重窓だった場合です↓

建築における遮音・遮熱

二重窓ガラスが遮音の一例であるように、エンジニアは、遮音や断熱を施すことでビルの入居者を幸せにする方法を他にもたくさん発見しています。防音に関しては、乾式壁を壁のフレームから切り離したり、ゴム、コルク、フェルト、グラスファイバーなどでできたフロアアンダーレイ(最終的な床材の下に敷くカーペットパッドのようなもの)を使用したり、乾式壁の後ろの木や金属のスタッドの間に防音材を設置する方法などが一般的です。

特に騒音に敏感な賃貸ビルでは、システム全体でシミュレーションを行い、窓や屋上に降る雨音を軽減することにも成功しています。熱的・音響的要件を組み合わせて建物の外観部品を設計することは、従来の設計アプローチ、新しく革新的な設計手法の両方にメリットがあります。

デジタルで真実を暴く:騒がしい隣人のジレンマ

アパートでの典型的な音の乱れ(テレビ、足音、外での活動、雨音など)のイメージ図

技術力とシミュレーションによって進歩してきた防音材ですが、AlphaCellはこれを各用途にモデル化してシミュレーションを行う機能を備えています。Altairパートナーアライアンスの一員であるAlphaCellは、さまざまな加振条件(空気中、構造体が介在する場合、乱流境界層)における多層トリムの振動音響応答をシミュレーションできる完全なソリューションです。多層構造の定常熱特性の計算や、熱橋の考慮できます。

AlphaCellのユーザーインターフェースは直観的で、モデル設定を迅速に行えます。また、計算も早く、実測データに対する騒音・振動・ハーシュネス(NVH)評価の検証も容易です。音響性能を理解し、単一のプラットフォームでシミュレーションの選択、モデルの最適化を行えます。また、AlphaCellには様々な独自機能が組み込まれていて、スクリプト処理も可能です。Altair製品のユーザーは、Altairパートナーアライアンスを通じてAlphaCellにアクセスできます。

二重ガラスの防音効果 検証結果

アパートを完全に防音することはできないかもしれませんが、NVHシミュレーションを駆使することで、建築デザイナーや建築家は、建物の音響性能を向上させることができますし、エネルギー節約や低エコロジカルフットプリントのアプローチに必要な熱性能の向上に取り組むこともできます。設計プロセスの早い段階でシミュレーションを適用すれば、設計のやり直しを少なくし、早期にコンセプトを検証できます。また、従来のアプローチとは異なり、シミュレーションでは、振動音響や熱解析などのプロセスのワークフローを自動化して最適化の機会を探ることができます。シミュレーションツールは、物理的な試験のコストや手間をかけずに、マンションや商業施設などさまざまな建物の音響に材料や設計プランがどのような影響を与えるかを検討できます。AltairとAlphaCellは、音響応答の測定、防音材の試験、構造物の機能性評価のための統合ソリューションを提供しています。

AlphaCellの結果によると、ベンチュラの叫び声は引き戸によって完全には消えませんでしたが、ガラスの厚さやガラス間の距離によっては、音を十分に減衰させることがわかりました。これでエース・ベンチュラのシーンの真実の検証と、建築物の音響性能向上にいかにNVHシミュレーションが有用かを示せたと思います。

AlphaCellの製品概要 音響解析

Altairのシミュレーション技術が建築構造の革新にどのように役立つかについては、こちらをご覧ください。

デジタルで真実を暴く:氷山ポスターは正しいか?

*本記事は、米国本社のブログ『Digital Debunking: The Noisy Neighbor Dilemma』を翻訳したものです。

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カテゴリー: Innovation Intelligence Global, デジタルで真実を暴く

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