解析よもやま話【第37回:周波数応答解析の素朴な疑問】

周波数応答解析は工業製品の振動特性を予測・評価する上でよく適用されている手法です。

周波数応答解析の考え方

図1 周波数応答解析の考え方

この手法は図1の振動解析トレーニング資料に示されるように、一つの加振周波数に対して発生するモデル各部の変位や応力等の応答は全て同じ周波数になるということを前提にしています。

この説明に対して「一定周波数で加振しても振動は色々な周波数で発生するのでは?」という疑問を抱く方がいらっしゃいます。そこで実際に過渡応答解析を用いて一定周波数の正弦波加振を行った場合どのような応答が得られるのか試してみました。

箱型のシェルモデルに75Hzで加振

図2 箱型のシェルモデルに75Hzで加振

対象としたのは図2のような箱型のシェルモデルで、下端の四隅を拘束して上面中央部を上下方向の一定荷重で加振します。このモデルの固有振動数は最低次から55Hz、63Hz、99Hzとなることが事前に確認してありますので、固有振動とは関係のない75Hzで加振することにしました。

箱の下面中央部の振動変位

図3 箱の下面中央部の振動変位

まずモデル内に減衰が設定されていない状態で計算を行いモデル下面中央部の上下方向変位応答を確認してみると、図3の左側のようにまさに疑問通り色々な周波数成分が混じった不規則な振動となることが分かります。そこで今度は適度な減衰(減衰比=0.03)を設定して再計算を行うと、図3の右側のように最初の0.2秒程度までは色々な周波数成分が混じっていますがその後は加振周波数と同じ周波数(75Hz)での一定振動に収束していきます。

実際の構造物には必ず多かれ少なかれ減衰が含まれますので、ある程度時間が経過した定常状態では周波数応答解析の前提条件は正しいということが分かります。

ちょっと脱線しますが、楽器の音色というのは音出しの最初の短い時間における色々な周波数成分を含んだ部分が楽器の種類や上手下手の判別に大きく寄与していると言われています。

連続して音を発生できるトランペットのような管楽器やバイオリンのような擦弦楽器の音を録音して途中から聞くと何の楽器の音なのか非常に判別しにくくなります。機会があれば試してみてください。実際には管楽器や擦弦楽器は定常状態でも正弦波加振ではないので音色の判別が全くできない訳ではありませんが。

*この解析にはAltair OptiStructが使用されています。

第36回:「設計要件を満たすこと」を目的に最適化する <<  >> 第37話 楽器の音色の解析

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関連リンク

  • Altairの振動・騒音(NVH)解析
  • 解析よもやま話【第33回:音響解析と音楽】

 

 

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カテゴリー: 解析よもやま話

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