破壊現象の原因の8割以上が疲労破壊に起因するものの、あまり積極的に疲労解析が行われてはいないように感じます。Altair製品にこの春から疲労解析ソフト「Altair HyperLife」が加わりました。ここでは本に載っているクレーンのパーツの破損事故の実例についてHyperLifeで検証し、最終的にLife(寿命)を予測するカスタマイズまでやってみます。
破損事故のシナリオ
概要図は下図の通りです。使用期間は約3か月(1日200回使用したとして1.92×104回)、手計算による分析では、疲労破壊する繰り返し回数は3×104と計算されています。
破損したクレーン概要図
HyperLifeによる疲労解析
とりあえず応力解析の結果がないと寿命予測の作業ができないので、OptiStructで下のような解析をサッとやってしまいます。
クレーンパーツのモデル(HyperMeshを使用)
大まかな寸法は本に書かれているのですが、分からない部分は推測しながらモデルを作成しました。パイプ(青)の外径より破損部品(黄)の内径のほうが少し大きく、これが原因で高い曲げ応力が発生していたことが破損の原因でした。両者に接触を定義し、パイプの両端を完全固定、破損部品の端部に定格5tonの荷重を与えて解析を行います。
ミーゼス応力
ここからHyperLifeの登場です。上の解析結果を読み込んだ後SNの設定を以下のようにしました。
Material Setupの設定は文献から読み取れるものをなるべく設定し、Load Mapでは、荷重ケースが1つだけなのでLoad TypeをBlock LoadingにしてMinを0.0、Cyclesを1にして作成しました。
あとは読み込んだ解析データと組み合わせてイベントを作成して解析実行です。
解析結果は以下のようになりました。
結果をまとめると以下の表となります。
Cycle | 備考 | |
実例 | 1.92×104 | 1日200回で約3ヶ月を想定 |
手計算 | 3.0×104 | |
HyperLife | 2.784×104 |
HyperLifeの結果はオーダー的に一致しているとみてよいと考えられます。
実際の状況に近い複数のシナリオを評価
以下の追加シナリオを検討してみます。
- 実際には全て定格で使用することは無いという条件を考慮して80%の4tonを荷重条件としてみます。
- 実際にはクレーンは動いていることから動荷重係数1.2~1.5の範囲で考えてみます。 再解析を行わないといけないのですが、今回はHyperLife上だけで影響を考慮してみます。
HyperLifeのLoad MapでMax Valを変えたBlockLoadを2つ作成します。それぞれMax Valの値は1.2と1.5に0.8を掛けた値を設定します。つまり、実際の状況に近い積荷で、「常に丁寧に運転した場合」と「常に荒っぽく運転した場合」の2つのシナリオを考えてみます。結果は以下の通りです。
常に丁寧に運転した場合
常に荒っぽく運転した場合
使用状況のシナリオを変えた解析を直ぐに行うことができました。作業時間は計算時間を含めて4分ほどです。
Cycle | 備考 | |
実例 | 1.92×104 | 1日200回で約3ヶ月を想定 |
手計算 | 3.0×104 | |
HyperLife | 2.784×104 | 定格5ton |
HyperLife | 4.655×104 | 定格の80%常に丁寧に |
HyperLife | 2.358×103 | 定格の80%常に荒っぽく |
サイクルの比較
実例が追加シナリオのサイクル内に収まっていることから追加シナリオの妥当性があるといえます。追加シナリオの中間付近(サイクル数1.05×104)が最多の条件として考えると、実例のほうがサイクル数が多くなっています。このことから実際に運用されていた荷物は定格の80%よりも軽いケースが多かったか、若干丁寧な運転で運用されていたのではないかと想像できます。
寿命を予測する
話は少し変わり、HyperLifeの「Life」の数値がイメージしにくいので少しカスタマイズしてみます。
HyperLifeはHyperViewをベースにしているため同様のカスタマイズが可能です。ここではノートの値からLifeを取得し、1日の想定回数を入力したらリミットになるまで何ヶ月か、何年かを計算する機能を作ってみました。
人間にはこっちのほうが分かりやすいと思いますがいかがでしょう?
参考文献
西田新一(1995)「機械・構造物の破損 解析と対策」p.37 – p.43
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