最適化×3Dプリンティングで76%の軽量化 – 3Dプリント製バルブブロックの設計プロジェクト

最適化×3Dプリンティングで76%の軽量化 - 3Dプリント製バルブブロックの設計プロジェクト

新しい手法により、積層造形のメリットを徹底的に活用

積層造形(より一般的には“3Dプリンティング”)には、従来の製造手法に優る、数多くの利点があります。積層造形は非常に複雑なコンポーネントジオメトリを作成できるため、設計者やエンジニアが手に入れる設計の自由度は従来とは比較になりません。そのうえ、これまで以上に構造的な効率性に優れた、軽量な設計を実現できます。こうした積層造形の恩恵を受けようと試みる企業がさまざまな産業で増えています。しかしながら、企業はすぐにあることに気付かされます。つまり、3Dプリンティングのメリットを完全に享受するには、積層造形プロセス特有の要件と制約を満たすようにコンポーネントを設計しなければならないのです。

2015年、フィンランドのVTT社(Technical Research Centre of Finland Ltd.)は、積層造形の実現可能性を探る研究プロジェクトを実施しました。このプロジェクトは、フィンランド政府の出資機関であるTekes、VTT社、そしてより規模の小さい複数のフィンランドの企業を含む、公的機関や民間企業から資金提供を受けました。

VTT社は北欧の先進的な研究・技術開発企業であり、フィンランドの国家的な任務を担っています。VTT社は73年の間、国内外の官民の顧客およびパートナーに対し、専門知識、トップレベルの研究、科学的なソリューションを提供してきました。VTT社の研究者は、新しいスマートテクノロジーの開発、利益を生む革新的なソリューションの創出、さらに顧客との密な協力を通じて、顧客企業および社会一般に有益なテクノロジーを生み出してきました。

積層造形プロジェクトで、VTT社のエンジニアチームはNurmi Cylinders社のバルブブロックを取り上げました。Nurmi Cylinders社は、オフショア、工業、海洋、自動車の各産業の油圧装置向けに油圧シリンダー製品を製造する、フィンランドに本社を置くメーカーです。また積層造形研究プロジェクトの出資企業でもあります。2社は共に、積層造形のメリットを完全に享受するためには積層造形専用の設計はどうあるべきか、を示すことにしました。積層造形を利用してバルブブロックの小型化と材料使用量の削減を実現すること、またバルブブロックの内部流路を最適化および改善して顧客のためになるコンポーネントを作ること、の2点を目標に掲げました。

3Dプリント製バルブブロックのプロジェクトを担当したエンジニアは、VTT社のリサーチサイエンティストのErin Komi氏です。Komi氏は有限要素法の音響シミュレーションを扱っており、VTT社の顧客向けにさまざまな製品の音響モデルを作成しています。また最近では積層造形の設計プロジェクトをスタートさせ、トポロジー最適化などの設計ツールを応用して取り組んでいます。

プリント可能かつ最適な設計を見つける

コンポーネントや製品の中には、サイズ、形状、設計、生産数によっては3Dプリンティングに適さないものもあります。バルブブロックは3Dプリンティングへの適性が非常に高いうえ、積層造形での製造によって重量・性能・設計の自由度の面で改善できる、大きな可能性を秘めています。従来のバルブブロックの設計は、まず金属の塊から始めます。そして旧来の製造手法で指定された形状を作ってから、作動油を流すための内部流路をドリルで切削しなければなりません。この内部流路をドリルで精確に切削する工程が難しいのです。流路同士は指定の位置でぴったりと合わさる必要がありますが、『ブラインド』位置のドリル加工で、位置ずれの問題がよく起きてしまいます。さらに、補助穴は一般的にドリルで切削した後に栓をしますが、ここには油漏れの危険性が潜んでいます。

VTT社のエンジニアチームは、最適化と積層造形を駆使して、バルブブロックの内部流路の設計および製造方法の改善と、最終製品の小型化・軽量化・性能向上を実現することによって、従来の面倒な製造手法を過去のものにできないかと考えました。

VTT社は、バルブブロックの設計、最適化、解析にAltairのHyperWorks®CAEソフトウェア製品群を使用しました。VTT社が最初に選んだのは、HyperWorks製品群の最適化ツール・有限要素ソルバーであるOptiStruct®でした。「真っ先にOptiStructに飛びつきました」とErin Komi氏は振り返ります。「以前に使用したことがあってワークフローは把握していましたし、結果にも満足していました。OptiStructは当然の選択でした」

また同氏は次のようにも語っています。「市場にはほかにもトポロジー最適化を実行できる製品があります。しかし結果の解釈の機能も非常に重要で、HyperWorksではそれがやりやすいのです。OptiStructは柔軟性に優れており、荷重を適用したり応答や制約を追加したりするときの選択肢が豊富で大変便利です。OptiStructのおかげで、モデルを正しく設計するための自由度が格段に上がります」

ソフトウェアツールで設計プロセスを加速し、課題にも対処

OptiStructなどのツールでトポロジー最適化を行う大きな利点は、コンポーネントの設計にCADモデルが実質的に不要になることです。設計空間、制限、そして荷重などの境界条件を定義したら、最適化ツールで最適な設計を生成します。VTT社のプロジェクトでは、境界条件や内部の制限(実際にバルブを取り付ける位置、考慮すべき切削加工公差など)は顧客から提供されました。また内部流路のサイズ、位置、方向も、顧客および非設計空間の一部によって指定されていました。こうして本事例の設計空間は、接合ボルトを取り付けるための穴が数個空いたブロックとなりました。VTT社のバルブブロックの設計最適化で重要な役割を果たしたのは、OptiStructの形状生成ツールの1つであるOSSmoothです。OSSmoothでは、初期のすべての設計要件を満たしつつ応力制限内に収まるように、設計を自動的に再メッシングして解析をやり直すことができます。この時点では、設計は粗いモデルでしかありません。また、3Dプリンティングへの適性を低下させる応力スパイク(局所的な応力の増加箇所)がよく発生します。

OptiStructとOSSmoothによる形状の生成OptiStructとOSSmoothによる形状の生成

OptiStructとOSSmoothによる形状の生成

VTT社はこの課題に対処するため、Altairパートナーアライアンス(APA)で提供されている、Materialise社の3-maticsSTLというソフトウェアアプリケーションを利用しました。APAによりHyperWorksの顧客は、既存のHyperWorksライセンスの下で追加費用なしでサードパーティ製のツールを利用できます。3-maticSTLソフトウェアでは、デザインの修正、再メッシング、および3Dテクスチャ・軽量モデル・共形構造の作成を、すべてSTL(光造形法)ファイル上で実行することができます。今回、Komi氏は3-maticsSTLを使って、最適化したメッシュをプリント可能なファイルに変換しました。

3-maticsSTLでジオメトリを整え、3Dプリンティング用のモデルを作成3-maticsSTLでジオメトリを整え、
3Dプリンティング用のモデルを作成

「Materialise社のことはAltairを通じて知りました」と、Komi氏は説明します。「設計プロセスのある時点では、HyperMeshでプリント用のモデルを作成しようとしましたが、非常に手間がかかってしまいました。数日かかったうえに、成果物もいまひとつでした。3-maticsSTLのことを知りすぐに試してみたところ、数日かかっていた作業が数時間で完了し、成果物の質も格段に向上しました。それに加えて、HyperWorksライセンスで3-maticsSTLを利用できたため、追加のソフトウェアに投資する必要さえありませんでした」

バルブブロックは何度かの設計やり直しを経ました。ある箇所では、Komi氏が導き出した設計が、顧客から提供された設計空間の初期サイズをはみ出してしまいました。そのときになってわかったことですが、顧客が設計空間のサイズを縮小していたのです。顧客は、設計空間が小さければ最適化後の最終設計もおのずと小さくなるだろうと考えていたようですが、これは必ずしも正しくありません。応力や力の自然な流れを考慮し、そのうえで設計を完全に自由に行えば、最小・最軽量・最大剛性の設計のような、ベストな最適化結果を得られるのです。

バルブブロックの性能をさらに最適化するために、Komi氏は内部流路の経路を変更しました。当初、流路はS字を描いており、断面は円形でした。ところが、バルブブロックを実際に積層造形で製造するにあたって、VTT社はSLM(選択的レーザー溶融)装置を使用しなければならず、SLM法の場合、流路が細すぎるために、流路内にサポート部を用意することは不可能に近かったのです。VTT社が顧客との検討の末に編み出した解決策は、断面積は変えずに、流路の形状と経路を変えるというものでした。

プロジェクトの大きな目標の1つに、SLMの『設計ルール』の作成がありました。円以外の楕円やひし型形状の流路の設計に関するガイドラインも、これに含まれます。楕円やひし型形状にすれば、設計にサポート部が不要になり、SLM法でのプリントの質が向上するのです。その他にも、基礎プレートに構造をプリントするときの最適な角度は45度、という知見が得られました。SLMプリンター向けのこうした設計のベストプラクティスを基に、VTT社は一連の『設計ルール』を定めることができました。このルールは推奨事項として最終的に顧客に提案しました。

最適化設計により、製品の小型化と軽量化を実現

バルブブロックの設計と製造に新しいアプローチを採用した効果は、目を見張るものがありました。コンポーネントの全般的な小型化と軽量化を実現し、内部流路の流体の流れを改善し、そのうえですべての応力および強度要件を満たすことができました。従来のドリル切削で同様のバルブブロックを作成した場合、重量は2.5kgを超えることが予想されます。最適化した新しい3Dプリントのバルブブロックは600gを切り、従来の設計および製造手法と比較して76%の重量削減に成功しました。また、新しい積層造形プロセスにより、材料の無駄も省くことができました。

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OptiStructによるモデルの解析

研究プロジェクトの成功は、顧客であるNurmi Cylinders社のみならずVTT社にも価値をもたらした、とKomi氏は考えており、「プロジェクトに関わった全員が結果に非常に満足しています」と語っています。「公的なプロジェクトだったため、私たちの成果と解決への道筋は、こうして公開し、話すことができます。プロジェクトには興味深く取り組めました。というのも、バルブブロックの場合、構造の最適化時に鍵を握る荷重ケースが既にしっかりと定められているのです。

トポロジー最適化の結果トポロジー最適化の結果

トポロジー最適化では、一風変わった、複雑で有機的な形状の設計が生成されました。これではプリントするのが困難であり、おかげでプリントプロセスに向けての計画の過程で非常に多くを学ぶことができました。具体的には、プラットフォーム上のプリントの方向を検討したり、内部のサポートをなくす設計にしたり、外部のサポートを最小限に抑えたりなど、多くを調整する必要がありました。3Dプリンティング自体を扱えたことも、私たちにとって有意義な学習の機会になりました。」さらに次のようにも述べています。「VTT社では当時、SLMプリンターを導入して1年ほどが経っていましたが、3Dプリンティング専用の設計はどうあるべきかを会得するために、まだまだ設計プロセスを進化させる途上にありました。そんなときに、こうして実際に3Dプリンティング用の設計に集中して取り組むことができたので、多くのことを得られました。3Dプリンティングのメリットは設計の早い段階で明らかになったため、それを考慮しながら設計しました。今回のプロジェクトは3Dプリンティングをうまく生かすためのよい機会でした」

トポロジー最適化ツールを使うことなしには、今回と同じ設計に至ることは難しかっただろう、とKomi氏は考えています。OptiStructの最適化で設計案を出し、3-maticsSTLで設計を洗練したバルブブロックは、自然が作り出したような有機的な形状に生まれ変わりました。加工前の材料の塊を前にしただけでは、Altair HyperWorksツールが生み出すアイデアに頼ることなく同様の設計を作成することは、誰にもできなかったでしょう。

「このプロジェクトを成功に導くうえで、Altairの各種ツールが非常に重要な役割を果たしました。OptiStructがなければ、トポロジー最適化を実行し、設計空間内における材料の最適な配置を定義できませんし、OSSmoothのようなツールがなければ、最適化の結果を解釈し、実現可能な解決案を作ることはできません。それに加え、生成されたメッシュを滑らかにしてプリント可能かつ望みの形状にするには、3-maticSTLなどのツールも欠かせません。最後には、滑らかにした最終設計を解析し直すために、再びOptiStructが必要になります。このプロセスによって、信頼性の高い、プリント可能な設計が得られるのです」
Erin Komi,
Research scientist, VTT

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カテゴリー: 事例

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