簡単! 機械学習6: 射出成形の試し打ちに役立てる

射出成形の条件調整は職人技

射出成形というものは、ボタンを押せばポンと成形品ができあがるのではなく、技能士の方が、毎回、何度も試し打ちをして、適切な成形条件を調整しているそうです。
参考:「TOKYO 匠の技(プラスチック射出成形 熟練技能編)

この調整を機械学習で効率化できないか?と思いました。

射出条件と出来栄えを数値化して記録しておけば、それを基に、ディープラーニング予測モデルを作ることができるはずです。その予測モデルで、出来栄えを予測し、良さそうなところまで調整できたら、本当にショットする、ということを行えば、調整時間の削減になるのではないでしょうか。

ウエルドラインとヒケの出来栄えをスコア化

アルテアは射出成形機を持っていませんので、本当にショットしてみることができません。そこで射出成形シミュレーションソフトAltair Inspire Moldで次のショットをシミュレーションしました。

簡単!機械学習6:射出成形の試し打ちに役立てる

まず、ディープラーニングに学ばせるためのデータを作ります。実際には、日々のショット時の条件と出来栄えということになりますが、今回は、金型温度、射出流速、保圧を変化させながら、ウエルドラインとヒケの出来栄えを評価することにしました。もっと多くの条件や評価項目があると思いますが、話を簡単にするため絞りました。

金型温度を303~343 [K]、射出流速を2.5e-5~5.5e-5 [m^3/sec]、保圧率80~95 [%]の範囲で、なるべく偏りのないように31の組み合わせでショットを行いました。

実際に手の感覚で評価することはできませんので、視覚で評価します。ヒケは、次のように4つのパターンが出てくることが分かりました。左から順番に凹凸が目立ちにくくなります(私の主観です)。左から順番に、緑、青、超青、超緑パターンと名付けて、1、2、3、4点のスコアを与えることにしました。

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(変形倍率 200倍で描画しています)

ウエルドラインはここに注目しました。

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断面を見てみると、表面だけのパターンから、内部全体がウエルドラインになってしまっているものまでありましたので、私の感覚で4段階に分けました。こちらは、左から順に4、3、2、1点というスコアにしました。

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次のようなデータセットができました。

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※今回は実物が無いので仕方なくシミュレーションソフトウェアを使いましたが、本質ではありません。可能であれば、実物の射出成形機で成形条件を変えながら、実物のショット品を見て触って評価して、データセットを作成してください。

ディープラーニング予測モデル作成

簡単にディープラーニング予測モデルを作れるAltair Knowledge Studioで、ぱぱっと予測モデルを作り再現性の確認まで行いました。

簡単!機械学習6:射出成形の試し打ちに役立てる

次のように、学習データセットをきっちり再現できています。

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本当に簡単なので、この節はこれで終わりです。

予測モデルで高スコアの成形条件を探す

ここで、ヒケもウエルドラインも4点を出せる製造条件を自力で探してみたいと思います。「データセットの数値は知らない」「金型温度は330 Kを超えるあたり、流量は4.0e-5~5.0e-5 m^3/secあたり、保圧85~90%あたりで、ヒケとウエルドラインが4点を出す場合があることは知っている」の2つが前提です。

はじめに、金型温度330か335 [K]、流量4.0e-5か5.0e-5 m^3/sec、保圧85か90%の組み合わせを総当たりで予測してみました。次の8通りです。

簡単!機械学習6:射出成形の試し打ちに役立てる

Knowledge Studioの使い方としてはとても簡単なので特に説明することはありません。

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その結果、金型温度335K、流量5.0e-5 m^3/secの時が最も良い結果でしたが、ウエルドラインに関しては3点でした。

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そこで、この最も良い条件を挟み込むように、金型温度332か338K、流量4.6e-5か5.4e-5 m^3/secのパターンで行ってみました。保圧の影響がみられなかったので、保圧は前回同様85か90%です。

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すると見事に、金型温度338K、流量5.4e-5 m^3/sec、保圧90%でヒケもウエルドラインも4点を取れる条件が見つかりました。

本当に適切な条件なのか?確認ショット

本当にこの条件で良いのか、実際に(シミュレーションで)この条件でショットしてみました。それがこちらです。

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期待通り、ウェルドが内部に入り込まず、表面の凹凸を感じさせない超緑パターンを得ることができました。

まとめ

今回、総当たりの16パターンの条件を機械学習で調査し成形条件を見つけ、実際のショットを1回行うだけで、良い結果を得ることができました。

機械学習で仮想的に成形条件を調整することで、

  • 調整に必要なショット回数を減らせる
  • 無駄打ちを気にせず、気になる条件を全て調査することができる

というメリットがあり、さらに拡大解釈すれば

  • 成形条件調整の定型化
  • 新人の早期レベルアップ

も期待できます。

コーディング不要の効率的な機械学習(ML)にご興味のある方は、機械学習(ML)とデータ分析のページを、射出成型シミュレーションツールの詳細についてはInspire Moldのページをご覧ください。

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カテゴリー: 簡単!機械学習

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