コンピュータの能力の向上に伴って構造解析に用いられるFEMモデルも大規模化が進んでおり、とにかく詳細モデルを作って力ずくで計算する、というのが普通になってきています。しかし、計算能力が向上すればその分FEMモデルも詳細化する、といういたちごっこで、計算に掛かる時間はあまり短くなっていないのが実情のように感じています。そんな中で、計算時間を短縮するテクニックの一つとして対称条件を使う、というのはポピュラーな方法です。昔からよく使われていますが、より詳細なモデルでも短時間に結果を得ることができるので、現在でも有用性は高いと思っています。モデル形状も拘束条件も荷重条件も対称であれば、モデルを対称面で切って1/2や1/4にすることで必要なメモリや計算時間を大幅に削減することが可能です。しかし、解析する現象によっては注意する必要があります。それは非線形でしかも不安定な変形が発生する現象の場合です。


図3 フルモデルの計算結果
では、このモデルを実物通りにフルモデルで計算するとどうなるでしょうか。図3がその計算結果です。一見1/4モデルと同じように見えるのですが、図4のように真横から見ると明らかに対称ではない変形状態になっていることが分かります。
図4 フルモデルの計算結果を横から見た図
これは、非線形解析における収束状況のごくわずかな差異のために一方のノッチ周辺の方がもう一方よりも応力が大きく計算されると、そこから先はアンバランスがどんどん助長されて変形量の差が大きくなっていくことによりもたらされた結果です。つまり、この例では対称条件を使用するのは適切ではなく、フルモデルで計算を行う必要がある、ということになります。これは解析上だけではなく、実現象としても発生します。この場合、実際に複数回試験を行ってどちらのノッチが大きく変形するかは、製造上の誤差や偶然によって左右されて一概には決まらないことが予想されます。このように、非線形な現象を再現しようとする場合にはちょっとした不安定性が最終的には大きな影響をおよぼす場合があります。
だからと言って常にフルモデルで非線形解析を行わなければならない、という訳ではありません。今回の例でも、この部材が永久変形を起こさない範囲で強度や剛性を評価するのであれば1/4モデルで充分であり、計算時間は数十分の一で済みます。やみくもに詳細モデルを作成するのではなく、この解析で何を評価したいのかをしっかり考えてモデル化することが重要です。
第27回:材料の破断と要素サイズ<< >> 第29回:材料特性
カテゴリー: 解析よもやま話