解析よもやま話 【第26回:慣性リリーフ解析】

最近、「拘束条件の入れ方が分からない」という質問を、学生さんや企業様から受けることがよくあります。そこで、今回は慣性リリーフ(イナーシャリリーフとも呼びます)という解析手法を紹介したいと思います。

通常の静解析では、対象物がどこかへ飛んで行ったりその場で回転したりしないように、モデルのどこかを拘束した上で荷重を負荷して変形や応力を計算します。しかし、人工衛星や飛行機にロケット噴射や乱気流の荷重が負荷された場合の解析を行おうとすると、拘束条件を入れることができません。自動車の場合も、高速で走っていて1つの車輪が突起を乗り越えたとすると、他の3つの車輪が支える前に通過してしまいますので、3つの車輪を拘束して1つの車輪に荷重を負荷する、という方法は適切ではありません。

airplane_arrow空中にある物体は拘束して荷重を負荷できない

これらの例では、荷重が負荷されたことに対して質量に比例した反力が発生します。これを慣性力というのですが、この慣性力と負荷された荷重のつりあいを計算するのが慣性リリーフという手法になります。実際にはつりあっている訳ではなく、荷重に押されてどんどん加速していくわけですが、その加速している物体の上に視点を置いて観察している、というイメージです。

Altair OptiStructには慣性リリーフの手法として、自動と手動の2つの方法が用意されています。自動の場合、支持条件は必要なく、荷重条件だけを指定します。これで視点はモデルの幾何学的中心または重心に設定されて解析が行われます。手動の場合にはモデルが剛体運動を起こさない最小の支持条件を設定して解析を行います。この場合には、視点は支持条件の場所にあることになります。自動の方が簡単ですが、変形量を見た時にどこを基準とした変形の値なのか分からないことが欠点です。手動の場合は剛体運動を防ぐ最小限の支持条件を考えるのがやや面倒と言えます。ある一点の全自由度を支持してしまえば良いのですが、ソリッド要素では並進方向の3自由度しか無いので1点だけではその点の周りに回転してしまいます。そこで3点を選んで最小限の支持条件を設定します。Altair HyperMeshによる慣性リリーフ解析の設定方法についてはユーザーフォーラムに詳しく記しましたのでご参照ください。

実際に簡単なモデルで試してみます。

図1のように車体の左前に地面からの突き上げ荷重が負荷されたという設定です。

Yomoyama26-01
図1 左前に下からの突き上げ荷重を負荷

計算結果は図2のようになりました。

Yomoyama26-02
図2 慣性リリーフ解析の計算結果。視点が異なるため変位分布が異なるが(上)、応力は同じ(下)。

見やすくするためにフロアは半透明表示になっています。左側は支持点を自動設定した場合で、右側は右シートに支持点を手動設定した場合です。また、上側が変位量で下側が応力の分布です。

左上の変位量を見ると、突き上げ荷重によって車体全体が上側へ変位するのに対して、質量の大きいシートが慣性力で取り残されてフロアが下側へ変位していることが分かります。変位の基準点はモデル全体の重心点です。右上の変位量は右シートに基準点を置いているので、シートは動かず車体が変位していることが分かります。どちらも基準点が異なるだけで実際の変形量は同じですので、下側の応力分布図は左右とも全く同じになっています。

慣性リリーフ解析の場合、計算モデルの質量とその分布が合っていることが大事です。例えば学生フォーミュラ車両のフレームの強度を解析する場合には、フレーム単品ではなく、そこにエンジンやシートおよびドライバー相当の質量を負荷して、完成車と同様の質量分布になるように調整しておく必要があります。

今回の例は路面からの突き上げ荷重を想定していますが、慣性リリーフ解析は衝突による前面や側面からの衝撃荷重を簡易的に評価する場合にも用いることができます。

 

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