解析よもやま話【第25回:座屈解析を考える(自重が剛性に与える影響)】

線形座屈について考える
図1 線形座屈

アルテアの中川です。

座屈という現象は皆さんご存知だと思います。座屈には二種類あって、一つが非線形座屈、もう一つが線形座屈です。柱を圧縮した時に、材料が降伏応力に達して潰れてしまうのが前者、応力は低いのに幾何学的に不安定になって折れてしまうのが後者です。今回は後者の線形座屈について考えてみました。

この現象はプラスチックの定規を上から押すと大した力を加えなくても図1のように簡単に折れてしまうことなどで身近に体験していると思います。

建物や機械などの圧縮荷重を受ける部材は、耐荷重性だけでなく耐座屈性も考慮して設計する必要があります。座屈荷重は単純な断面の柱であれば手計算で求められますし、複雑な構造であってもOptiStructの線形座屈解析機能で計算が可能です。

高層ビルの低層階を柱だけで支える構造図2 低層階を柱だけで支える高層ビル(京橋エドグラン)

弊社が入居しているビル(図2)など、最近は高層ビルでも低層階を柱だけで支える構造の建物が増えていますが、20世紀前半に活躍した建築家ル・コルビュジエが多用したピロティ構造に端を発するものと思います。サヴォア邸(図3)や、最近世界文化遺産に登録された国立西洋美術館などが典型的です。

日本は地震が多いので、低層階を支える柱は建物自体の重量だけでなく横方向に揺さぶられた時にも耐えられなくてはなりません。そこで耐荷重性、耐座屈性の上に耐横荷重性も考慮する必要があります。ピロティ構造は従来低層の建物にしか採用されていませんでしたが、免震技術の進歩などで高層ビルでも可能になってきたようです。

サヴォア邸 図3 サヴォア邸

前置きが長くなりました。耐座屈性と耐横荷重性は別の要件なのでそれぞれ独立して考慮すれば良いように思えますが、そうではなくこれらは同時に考慮しなければならない性質のものです、というのが今回のテーマになります。

直方体を柱で支えたFEMモデル
図4 ピロティ構造の簡易モデル

ピロティ構造の建物を想定した簡単な例として、図4のような直方体を柱で支えたFEMモデルを作成してみました。

このモデルに自重による圧縮荷重を負荷し、さらに地震を想定した横荷重を負荷してみます。普通に圧縮荷重と横荷重を同時に負荷しただけでは、耐荷重性と耐横荷重性を同時に考慮したに過ぎません。一方OptiStructにはPRELOADといって初期荷重による負荷によって生じる剛性変化を考慮した上で本荷重を負荷する、という機能があり、これがこのような場合に有効です。

図5の左側が普通に圧縮荷重と横荷重を同時に負荷した場合、右側が初期荷重として圧縮荷重を負荷し、剛性変化を考慮した上で横荷重を追加した場合です。

圧縮荷重と横荷重の負荷
図5 圧縮荷重と横荷重を同時に負荷(左)
初期荷重として圧縮荷重を負荷し、剛性変化を考慮した上で横荷重を追加(右)

 

初期荷重を考慮したケースでは横方向の変位量が1.4倍に大きくなっていることが分かります。自重による圧縮荷重は座屈荷重よりもずっと低いのですが、この荷重によって曲げ剛性が低くなり変位量が増加したことになります。つまり、圧縮荷重の増加によって部材の曲げ剛性が低くなっていき、最終的に曲げ剛性がゼロになる荷重を座屈荷重と呼ぶ、ということです。

圧縮と曲げを同時に受ける部材を評価する場合、実際の圧縮荷重が座屈荷重より小さいからOK、実際の曲げ荷重に対する曲げ剛性もOKというように独立して考えるのではなく、圧縮荷重によって低下した曲げ剛性で横荷重が充分に支えられるかどうかを考慮して設計する必要がある、ということになります。

弊社の入居しているビルもきちんと考慮して設計されていることを祈ります。

・Altairの構造解析・構造最適化ソリューション

 

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