レーシングカーやスポーツカーの車体後端にダウンフォース発生のための空力デバイスとしてウィングを取り付けるのは昔から行われてきたことですが、数年前からウィングの支持方法に変革が起こっているようです。これまではウィングを下側から支持するのが普通でしたが、最近は上側から支持する方式がよく採用されています。支持するステーの形状が白鳥の頭部に似ているのでスワンネックウィングと呼ばれています。
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自分のように構造屋を生業としてきた者から見ると理に適っているとは言い難い支持方法なのですが、スワンネックウィングは空力性能が優れていると言われています。ウィングの空力性能としては抗力と揚力の比が最も重要です。抗力(空気抵抗力)はできるだけ小さく、揚力(自動車の場合飛ぶのではなく地面に押し付けるダウンフォースが欲しいので負の力)はできるだけ大きくしたいわけです。そこで簡単なウィングモデルを使って上側から支持した場合と下側から支持した場合で空力性能に違いが出てくるかAcuSolveでシミュレーションしてみることにしました。
ウィングモデル(左:上面支持 右:下面支持)
このモデルに前方から180Km/hの風をあてて抗力と揚力を計算します。結果は以下のようになりました。
上面支持の方が抗力は若干大きくなっていますが、揚力(ダウンフォースなので負の値)がずっと大きくなったため揚力/抗力の比で見ると空力性能が約9%向上していることが分かります。ウィングのダウンフォースを大きくするためには、下面の流速を速く上面の流速を遅くすることで発生する下面と上面の間の圧力差が重要です。ステーの部分の断面での速度分布を比較したのが下図です。赤い部分では流速が速いことを示しています。
流速分布(左:上面支持 右:下面支持)
図から分かるように下面支持だとステーが邪魔をしてウィング下面の流れが乱れ流速も遅くなっています。一方上面支持だとウィング下面の流れはスムーズで上面に乱れが生じていますが、ダウンフォース発生には下面の流速が速いことが重要なので空力性能的には上面支持の方が優れていることが理解できます。
ウィングは半世紀以上前からレーシングカーやスポーツカーに使われてきた空力パーツですが、取り付け方法は基本的にずっと同じでした。それが近年になって急に大きな変化が起こるということにちょっと驚いています。他にもずっと当たり前だと思っていたパーツに誰かが目をつけて変革を起こしてくれることに期待しています。
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