解析よもやま話【第41回:金管楽器はなぜラッパ型なのか】

管楽器には、フルートやクラリネットなどの木管楽器と、トランペットやトロンボーンなどの金管楽器の2種類があります。紛らわしいのですが、実際の材質とは関係なく漏斗型のマウスピースを口に押し付けて唇の振動を管内に伝えて音を発生させるタイプのものを金管楽器、それ以外を全て木管楽器と呼ぶことになっています。

木管楽器はフルートやリコーダーのような直管や、オーボエやサックスのような末広がり管、あるいはオカリナのように管ではないものなど色々ありますが、金管楽器はトランペットから法螺貝まで例外なく先端が広がったラッパ型です。この形にどういう理由があるのか調べたところ「音量を大きくするため」程度の簡単な説明しか見つかりませんでした。他にも理由があるはずだと思い、シミュレーションで検討してみることにします。

  1. 金管楽器の音の出るしくみ

金管楽器は唇の調整具合で管内の気柱共鳴(注1)モードを一次、二次、三次、と変化させることによって異なる音程の音を発生させます。基底音をドとすると図1のように飛び飛びの音程です。

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図1 金管楽器の倍音列

中間の音はピストンやスライドなどを使って管の長さを変更することによって得られます。発生する音の周波数は、物理の教科書に記されている両端開口の場合と同様で、図2の左側のように基底音の1倍、2倍、3倍という整数倍の周波数になります。

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図2 管内に発生する気柱共鳴モード

注1)気柱共鳴とは?

ソプラノリコーダーの指孔を全て塞いで吹くとドの音がします。これは管の中で図2左上の状態で基底音の共鳴が起こっているからです。ここから順番に指孔を開けていくと音が高くなっていきますが、これは管の長さが短くなって波長が短くなって行くからです。低いドを出している時に無造作に強く吹くと意図しない高い音が出ることがあります。1オクターブ上のドの場合は2倍音、その上のソは3倍音、その上のドは4倍音が発生しています(図2左側および図1参照)。金管楽器の場合、唇の締め方を調整することで色々な倍音を意図的に出すことができます。

ここで疑問が生じます。金管楽器の一端は口で塞がれているので片側は閉口端になるはずです。その場合は図2の右側のように基底音の1倍、3倍、5倍という奇数倍の周波数になります。

五線譜に書くと図3のようになり、途中が抜けてしまいます。ところが実際には2倍、4倍という偶数倍成分もちゃんと出せますので、片側が閉口端なのに両端開口と同じ共鳴特性になるのはやはり先端のラッパ形状が原因として考えられます。

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図3 奇数倍音列

マウスピースや唇の振動など別の要因も排除できません。音響解析でそこまで検討するのは大学の研究論文レベルになってしまいますのでそこは無視できないかと考えました。

  1. トロンボーンで周波数を実際に測定してみる

アマチュア管弦楽団に所属する息子が実家(兼倉庫)に置いていったおもちゃのトロンボーンがあることを思い出しました。不在を良いことに勝手に検証に使わせてもらいます。

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図4 プラスチック製トロンボーン

図4がそのプラスチック製トロンボーンです。最初はうまく音が出ませんでしたが、しばらくやっているうちに、音色は良くないものの一応図1のように音程を吹き分けることができました。手元のチューニングメーターで周波数を測定したところ、下から約60Hz、120Hz、175Hz、240Hz、300Hzと整数倍(図2左)になっており想定通りの結果となりました。

トロンボーンが今回の目的にぴったりなのは分解できることです。

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図5 直管部分

図5のように途中で切り離すと直管部分だけにすることができます。この状態で吹くと非常に吹きにくく、音量も小さくなりますが、何度かトライして同様にチューニングメーターで周波数を測定したところ、約50Hz、150Hz、250Hzという結果が得られました。これらの中間の高さの音は出ません。

適当ですが、巻き尺で直管部分の長さを測定したところ約164cmでした。音速を340m/Secとすると片側閉口端の共鳴周波数は52Hz、156Hz、260Hzですので測定結果と一致します。周波数の関係は1対3対5になっており、やはり直管であれば片側閉口端の奇数次共鳴モード(図2右)だけが発生しました。

つまり、先端がラッパ型になっていることで偶数次共鳴モードも発生する、ということが分かりました。

  1. シミュレーションで確認してみる

この現象がシミュレーションでも再現できるか、Altair OptiStruct音響解析を行ってみました。

図6が解析を行ったモデルです。管の材質は黄銅相当(注2)とし、同じ長さで先端が広がったラッパ型(Horn)と直管型(Straight)の二つのモデルを作成しました。管の内部を含む周囲の空間は楕円体でモデル化(ピンク色の部分です。臓器じゃないです)して、構造-音響連成解析を行います。

空間モデルの表面は無限境界要素として楽器から1mほど離れた場所での音圧を求めることにしました。金管楽器の一端は口で塞がれていますので吹き口側は閉口端、先端側は開口端となります。固有値解析と、閉口端に一定荷重で振動を負荷した周波数応答解析を行いました。

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図6 解析モデル

注2)吹奏楽団のことをブラスバンドとも呼ぶのは金管楽器の材質としておもに黄銅(Brass)が使われていることに由来します。

図7が固有値解析による一次共鳴モードの比較です。ラッパ型(Horn:536Hz)の方が直管型(Straight:322Hz)より周波数が高くなっていることが分かります。

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図7 一次共鳴モード

ここで管内の共鳴モードをさらに詳細に見てみます。図8は直管型の場合の閉口端から開口端へ向かう距離と管内の音圧の変化を示しています。閉口端が腹、開口端が節になっていて(注3)管の長さが1/4波長となる図2の右上の一端閉口の基底音と同様です(図2は粒子速度を表しており、音圧とは節と腹が逆になります)。

図8 管内の音圧分布

注3)振幅が一番大きい場所を「腹」、振幅がゼロの場所を「節」といいます。

一方、図9のラッパ型の場合は先端へ向かって徐々に音圧が下がり、開口端を少し越えるあたりでゼロになるので管の長さプラスアルファが1/2波長となり、図2の左上の両端開口の場合の基底音と同様となります。つまり、ラッパ型形状によって開口端が直管のように一気に終わるのではなく徐々に終わることによって閉口端と同様の境界条件となり、両端閉口管と同じ周波数特性になるということが言えます。なお両端閉口管は音圧の節と腹の位置が逆になるだけで内部の共鳴特性は両端開口管と同様です。(本当に両端閉口管としてしまうと管の内部で共鳴は発生しても音が外へ伝わらないので楽器としては成立しません。あくまでも境界条件が同様だということです。)

図9 管内の音圧分布

図10が周波数応答解析の結果です。Hornがラッパ型、Straightが直管型の周波数特性を示しています。直管型は教科書通り1倍音(321Hz)、3倍音(966Hz)、5倍音(1611Hz)によるピークが発生しているのに対して、ラッパ型は1倍音(536Hz)の上は2倍音(1111Hz)、3倍音(1581Hz)と偶数次のピークも発生していて実際の金管楽器の特性を再現できていることが分かります。

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図10 周波数応答特性

  1. 結論:ラッパ型にすることで倍音の数が増える

物理の教科書に記されているような気柱共鳴は、あくまでも断面積一定の細い直管内で発生する平面波を前提としているので、金管楽器のように先端部が末広がりのラッパ型になった管の場合、断面積の急激な変化により単純な開口端としては扱えないことが分かりました。

余談

中学から高校の6年間ブラスバンドで金管楽器(ユーフォニアムとチューバ)を吹いていたのですが、今回45年ぶりにトロンボーンを吹いてみて一応まだ音は出せるものだということが分かってちょっと嬉しく思いました。金管楽器の先端部をラッパ型形状にすることで倍音の数が増えて演奏しやすくなり、音量も大きくなることは、どこの人がいつごろ発見したのか、改めて興味深く感じました。改めて調べてみたいと思います。

 

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