前回投稿した記事「楽器の音色の解析」の最後に触れた動吸振器についてもう少し詳しく解析してみたいと思います。
動吸振器というのは構造物に補助的な質量を適切なバネで接続して振動させることにより構造物側の振動を抑制する装置です。自動車の場合にはクランクシャフトの振動を抑えるためにフライホイールに付加したり、ラジエータが動吸振器として働くようマウントラバーの剛性を調整することで車体の曲げ振動を抑えたりする例があります。製品で問題となる固有振動と同じ周波数で動吸振器が共振するように調整することで、対象物の振動エネルギーを動吸振器に移動させるという原理です。動吸振器は振動だけでなく音に対しても有効で、 エンジンの吸気管の途中に共鳴室を設置した吸気音対策もよく行われています。
今回は建物に動吸振器を設置することで地震による振動をどの程度抑えることができるかをOptiStructでシミュレーションしてみました。図1のビルディングのモデルはOptiStructのサンプルモデル(OS-E2045)を流用して過渡応答解析の設定を行ったものです。集中質量による動吸振器の有無で建物の振動がどう変化するかを解析します。モデルの仕様は以下の通りです。

面積 1,000m2(40m×25m)
高さ 104m(26階)
質量 8,441ton
動吸振器は構造物の振動による運動エネルギーを吸収することが目的ですので、最も振動振幅の大きい場所に設置することが有効です。建物の場合は上部の振幅が大きくなりますので、動吸振器は屋上に設置するのが最も効果的ということになります。本モデルでは図2に示すように100tonの集中質量を最上階中央部に水平方向バネで接続しています。上下方向は剛体相当のバネとしましたので、摩擦の無い固い床面に置かれた質量体が水平方向に対してラバーで保持されているようなイメージです。ちなみに半径1.5mの鉄球の質量が約100tonとなります。

図2 100tonの集中質量を最上階中央部に水平方向バネで接続
まず動吸振器が無い状態で固有振動解析を行います。結果を見ると図3左側のように一次モードとして建物全体のY方向への曲げ振動が0.476Hzで発生していることが分かります。二次モードは図3右側のようにX方向への曲げ振動で0.559Hzです。これらと同じ周波数で動吸振器が同じ方向へ振動するようにバネ定数を決めます。

図3 動吸振器が無い状態の固有振動解析
固有振動の周波数は以下の式で求められます。
f=1/(2π)√(k/m) f:固有振動数 k:バネ定数 m:質量
f=0.476Hz、m=100tonよりY方向のバネ定数kY=894.0KN/m
f=0.559Hz、m=100tonよりX方向のバネ定数kX=1,234.4KN/m
が得られます。本モデルでは4本のバネで質量を支持していますので、各々は上記の1/4のバネ定数とすればよいことになります。
計算の入力条件としては建物が固定された地面を最初の0.1SecでY方向へ1m移動させ、次の0.1Secで元の位置へ戻してそのまま保持する、というインパクト荷重とします。図4の計算結果アニメーションで左側が動吸振器無し、右側が有りの場合です。変形が分かりやすいように実際の振幅を5倍に誇張しています。

図4 過渡応答解析の結果アニメーション(左)動吸振器無し(右) 動吸振器あり
また、建物最上部のY方向変位の時刻歴を動吸振器の有無で比較したグラフを図5に示します。

図5 Y方向変位の時刻歴を動吸振器の有無で比較
青が動吸振器無し、赤が動吸振器有りの場合です。グラフから分かるように最初の振幅はほぼ同様ですが、その後動吸振器の効果が表れて短時間で振動が減衰していることが分かります。
まず構造物側が振動したあと、その運動エネルギーが動吸振器に移って構造物の振動が減衰する、という原理ですので入力が加えられた直後は効果がほとんどありません。そこでこのような質量型の動吸振器は地震による倒壊を防ぐ、というよりは風による振動を抑えて入居者の不快感を低減することが主目的で設置されているようです。このような装置は「制振構造」と分類されます。オイルダンパーや積層ゴムなどを使用したより高度な「免震構造」がアルテアの入居している京橋エドグランには採用されているそうです。
京橋エドグランの免震構造▼
https://www.nittochi.co.jp/kyobashi_office/safety.html
この装置の効果もいずれOptiStructで再現してみたいと思っています。
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