先日日本太陽エネルギー学会主催の「電気自動車・燃料電池車・ソーラーカー製作講習会」に参加したのですが、株式会社ジーエイチクラフトの田村様より「コンポジット設計の勘所」と題して、コンポジット材を使用した設計に関して非常に参考になるお話をうかがうことができました。自分なりに感じたところを、一部田村様の講演内容を交えて(ご本人の了承を得ています)記したいと思います。
学生フォーミュラの車体は、以前は鋼管スペースフレームがほとんどでしたが、最近CFRP(Carbon Fiber Reinforced plastic: 炭素繊維強化プラスチック)モノコックボディを採用するチームが増えてきました。CFRPは軽くて強いといわれており、漠然と素晴らしい材料だと感じて飛びつきたくなりますが、注意が必要な材料です。
まず、強いというのは何を指しているかです。以前にも「高張力鋼で剛性向上?」の回で触れたことがありますが、強さには剛性の高さ(変形のしにくさ)と強度の高さ(破壊荷重の大きさ)の二通りの意味がありますので、両方を分けて考える必要があります。
剛性に直接関与する材料の特性がヤング率です。ヤング率は E=σ/ε(E:ヤング率、σ:応力、ε:ひずみ)で定義されます。応力(=単位面積当たりの荷重)を一定と考えると、ヤング率が大きい材料ほどひずみ(=変形)が小さい、つまり剛性が高い材料と言えるわけです。
一方で、強度はどれほどの荷重に破壊せずに耐えられるかを示しています。アルミとガラスはどちらもヤング率は同程度ですが、アルミの方が強度が高いということはすぐ分かると思います。
CFRPの話に戻ります。CFRPは樹脂の中に炭素繊維を含ませた材料で、図のように繊維が一方向だけのUD(Uni Directional)材と編み物のように交差しているファブリック材があります。UD材は繊維方向のヤング率も強度も非常に高いのですが、繊維と直角方向は樹脂だけでもつことになりヤング率も強度も低くなります。強いというのは繊維方向の荷重がかかった時だけの話なのです。一方、一般の方がCFRPとして思い浮かべるのは高級スポーツカーの内外装に使用されていて網目模様が美しいファブリック材だと思います。これはどちらの方向へも同等のヤング率をもっている一方、荷重方向を向いている繊維がUD材の半分しかないので、ヤング率の値そのものはそれほど高くない材料です。
ファブリック材は意匠的な意味合いが強く、本来の強度剛性は荷重方向を考慮して繊維方向をそろえたUD材で確保した上で、表面に薄いファブリック材を一枚貼って外観を美しくする、という使い方が多いと思います。ファブリック材だけを積層すれば特に弱い方向は無いので無難に車体を作成できますが、それほど軽くも強くもないのに値段は高いというあまり魅力のない使い方になってしまいます。アルテアのHyperWorksには繊維方向を考慮して最適な積層構造を導き出すためのツールが多数用意されていて、航空業界やモータースポーツの分野で活用されています。
次回の解析よもやま話では、強化繊維を使った部品の強度を精度良く予測する方法について詳しく解説します。
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