「より高速でつながる未来」という5Gの宣伝文句は素晴らしく魅力的ですが、プロダクトデザイナーにとっての5Gの定義は、それほど明確にはなっていません。
5Gは、私たちが知っているこれまでのモバイル通信とはほぼ別次元のものです。4Gのような従来の技術とは異なり、5Gのネットワークは統一されたものではありません。5Gはこれまでの技術を進化させたものではなく、さまざまな用途に応じた新しいネットワークの集合体です。そのため、5Gのとらえ方に少し混乱が生じています。
とはいえ、5G規格の前途は素晴らしいものです。最大20GB/秒の通信速度、信号の伝搬時間(レイテンシー)の最小化、同エリア内での多数のモバイル機器の同時使用など、あらゆるワイヤレス体験が瞬時に可能になり、新たな可能性への扉が開かれます。動画のストリーミング再生の高速化やよりリアルなゲーム体験以外には何も変わらないという人も中にはいるでしょう。しかし、思いもつかない分野での開発が着々と進んでいます。
それでは、5Gとは何か、この技術の活用のためにデザイナーやエンジニアが知っておくべきことは何かを紹介します。
- 5Gの標準化
- 用途別にアンテナが必要
- 4Gとは異なる5G NRの仕組み
- アンテナに見えないアンテナ
- より優れたビームフォーミングを実現
- MIMO – 5Gモバイル無線伝送技術
- 5Gのチャンネルとネットワークの展開 – どれだけのアンテナが必要かのシミュレーション
- 5Gモバイル通信の応用と展望
5Gの標準化
5Gとは、さまざまなネットワーク、技術、アプリケーションを網羅する包括的な用語で、移動体通信の標準規格です。5Gという名称は、国際電気通信連合(ITU)が創作した”第5世代移動体通信システム”を意味する造語です。そのため、標準化団体である3GPP(3rd Generation Partnership Project)は、IMT-2020(International Mobile Telecommunication)構想で5Gの実現を進めています。これと並行して、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)やITUなどの他の標準化団体でも、5Gの仕様策定が進められています。2019年末には標準化の最終段階に入り、現在では様々な分野で商用化が進んでいます。
用途別にアンテナが必要
新しい通信規格に対応する応用分野は数多くあり、5G モバイル通信には複数の周波数範囲が考慮されています。一般に、5Gモバイルネットワークはさまざまな周波数で動作するため、周波数帯ごとに異なるアンテナが必要になります。

5Gの周波数、到達距離、用途
いわゆるマルチレイヤースペクトラムから5Gの周波数帯をいくつかピックアップし、用途に合わせてみると、より明確になります。
カバレッジ(到達範囲):2GHz以下(例えば700MHz)は、この波長の電磁波が遠くまで届き、物体を通過するため、屋内やより広い範囲をカバーするのに適しています。
Cバンド:2〜6GHzは、カバレッジ、キャパシティ、そしていわゆる“スーパーデータレイヤー“を兼ね備えています。6GHzより大きい周波数(24-29GHz、37-43GHzなど)は、広帯域を提供しますが、木の葉でも接続を妨げることがあるため、直接見通しの良い環境が必要です。
このように、用途に応じて通信に使用される周波数帯が異なるため、専用のアンテナやアンテナのコンセプトが必要となり、アンテナの数を増やす一因となっています。また、LOS(送信機と受信機の間が見通せること)を必要とするNew Radio(NR)の特徴も、アンテナが増える理由のひとつです。
4Gとは異なる5G NRの仕組み
周波数の需要が増え続ける中、連邦通信委員会(米国のFCCなど)は、自由に使うことができる周波数帯、または空いている周波数帯の再割り当てを行っています。再割り当てにより、すでに5G用に割り当てられている周波数には、運用ライセンスが付与されます。したがって、ネットワーク事業者は、どの移動体通信技術を使用するかを自由に決定できます。
2020年末と2025年末に2GHz帯のUMTS周波数が失効することで、2021年から2026年までの間、これらの周波数(合計60MHz)が5G用に割り当てられることになります。
全世界には、WiMAXテクノロジーが残した未使用の3.5GHz帯があります。その結果、2022年には3.6GHz帯で300MHzの帯域が利用できるようになり、周波数は3.7GHzから3.8GHzの間になります。
NRはミリ波帯(ミリ波)を使用しており、24GHzから始まり52.6GHzまで拡張しています。将来的には64〜86GHzの部分も追加される可能性があります。
5Gに向けられた周波数(3.5GHz、26GHz以上)のほとんどは、電波の物理的な伝搬条件のため、狭い範囲にしか適していませんが、これらの周波数帯は、広い帯域幅の可能性も秘めています。フェムトセルと呼ばれる低消費電力の基地局を利用することで、非常に高いデータレートのモバイル無線ホットスポットを運用することができますが、より多くの基地局が必要になります。たとえば街灯に光だけでなく、フェムトセルの基地局をホストすることで、モバイル・ギガビット・インターネットへのアクセスを提供できる日が来るかもしれないのです。

4G ネットワークとアクティブ指向性アンテナを備えた 5G 都市への設置との比較
アンテナに見えないアンテナ
5Gのより高い周波数は、さまざまな点で優れていますが、中でも重要なのは、5Gが高速データの巨大な容量をサポートすることです。指向性が高いため、他の無線信号のすぐそばで使用しても干渉を起こしません。これは、あらゆる方向に信号を送信し、エネルギーと電力が浪費される可能性のある4Gタワーと大きく異なる点です。
5G NRでは、周波数が高くなることで波長が短くなるため、アンテナを従来よりもはるかに小さくでき、かつ正確な指向性制御が可能になります。1つの基地局に多くの指向性アンテナを搭載できるため、5Gでは4Gに比べて1メートルあたり1,000個以上も多くのデバイスをサポートできることになります。つまり、5Gネットワークは、より多くのユーザーに超高速データを高精度かつ低遅延に伝送できるのです。
しかし、これらの超高周波のほとんどは、アンテナと信号を受信する機器の間が明確に直線で見通せる(LOS)場合にのみ機能します。また、湿気や雨などに吸収されやすく、遠くまで届かないものもあります。

基地局に搭載された5Gアレイアンテナ
このような理由から、強力な5G接続でも、わずか数メートル離れただけで4Gの速度に落ちてしまうことがあります。この問題に対処する方法の一つとして、アンテナを戦略的に配置することが挙げられます。室内や建物の必要な場所に非常に小さなネットワークを設置したり、街中に大きなネットワークを設置したりします。日本ではこれをローカル5Gと呼んでいます。(>> PLATEAUの公開データを用いたローカル5G免許申請用データ作成キャンペーン)
5Gが普及すると、長距離の5Gに対応するために、電波をできるだけ遠くまで届けるための中継局が数多く設置されることになるでしょう。
5Gと4Gのもう一つの違いは、5Gのネットワークは要求されているデータの種類を理解しやすく、使用していないときや特定の機器に低料金で提供するときには低電力モードに切り替え、HD動画のストリーミング再生などのときには高電力モードに切り替えられることです。
より優れたビームフォーミングを実現
ビームフォーミングとは、指向性のある無線リンクを利用して、個々のモバイル機器に同時にかつ選択的に広帯域を供給するアクティブアンテナ技術のことです。
より高い周波数帯域を使用するには、マルチアンテナシステムが必要です。周波数が高くなればなるほど、電磁波の伝搬条件は悪くなります。マルチアンテナシステムとビームフォーミングは、この問題を一部解決します。ビームフォーミングは、空間的にターゲットを絞って電波を送受信することができ、ダイポール(アンテナ素子)の数が多ければ多いほど、ビームフォーミングの効果は高まります。
MIMO – 5Gモバイル無線伝送技術
5Gは、GSM、UMTS、4G/LTEといった前世代のモバイル通信とは異なり、根本的な技術に変更を加える必要はありません。既存のLTE技術に加えて、より高いデータスループットや低遅延を実現するためのシステムやインフラを追加します。5G NRインフラの主要要素は、マルチユーザーMIMO技術を可能にするアクティブアンテナアレイです。これらのアンテナモジュールは、ビームフォーミングを使用して、受信機との目標とする無線接続を実現します。

5GマッシブMIMOアレイアンテナのネットワーク環境でのシミュレーション。ビームフォーミングのアンテナパターンを実際の設置場所と重ね合わせたもの
高い指向性を持つ超小型アンテナのアレイは、個々の携帯端末に高い伝送レートを提供します。最新の3D MIMOやMassive MIMO機器では、複数の送受信ユニットが1つの端末機器に搭載されています。
5Gのチャンネルとネットワークの展開 – どれだけのアンテナが必要かのシミュレーション
モバイルと基地局のアンテナパターンを再現すれば、5G無線ネットワークのカバレッジの高度なシステム解析を行ったり、都市部、農村部、屋内のシナリオのチャネル統計の決定に役立てることができます。

5Gを工場の床に設置。5G無線ネットワークのカバレッジに関するハイレベルなシステム解析に活用するための、5G基地局のアンテナパターンのシミュレーション
Altair Feko™とWinPropによるモデリングは、4G/LTEネットワークのプランニングに広く利用されています。5Gネットワークへの適用は、大気の吸収や降雨による経路損失が大きい、壁への侵入が少ない、表面の粗さによる影響が大きいなど、ミリ波帯で発生するさまざまな要因を考えると、さらに大きな意味を持ちます。
WinPropは角度と遅延の広がりを計算できるだけでなく、ビームフォーミングを考慮に入れた様々なMIMO構成のパフォーマンスを分析、比較するためのプラットフォームを提供します。
5Gモバイル通信の応用と展望
5Gは、ネットワーク社会の重要なモバイルプラットフォームであり、さまざまなブロードバンド要件を満たす必要があります。5Gが現代の産業革命につながると多くの人が期待しており、以下の分野での活用が想定されています。
- デジタルホーム
- インダストリー4.0
- モノのインターネット
- eヘルスとモバイルヘルス
- モバイルTV/5G放送
- リアルタイムコミュニケーション(触覚通信)
- 自律走行
これらの実現には、まだまだ開発、実装が必要です。それまでは、ジッターのないクリアで安定感のある動画再生やインスタント・オンラインを体験できる日を楽しみに待ちたいと思います。

本ブログは、2020年9月17日に米国本社のブログに投稿された記事を翻訳したものです。
カテゴリー: Altair Global Blog, 届け!電波解析