1970年代後半から1980年代前半にかけて、プロテニスプレーヤーはラケットをウッド(木製)からグラファイトへ切り替えました。軽い素材であるグラファイトは、コントロール性に優れ、より速いスイングでパワーとスピンを生み出すことができます。
ウイルソン・スポーティング・グッズ社は、世界でも有数の高性能スポーツ用品メーカーで、中でもテニスラケットは、プロテニスプレーヤーの間でトップシェアを誇ります。セリーナ&ビーナス・ウィリアムズ姉妹、アンディ・マレーといった金メダリストたちをはじめ、フェデラー、ラオニッチ、錦織圭、デミトロフ、ハレプ、アザレンカなどのトッププレーヤーがこぞってウイルソンのラケットを使用しています。
スポーツの世界における競争は熾烈で、アスリートとその用具との関係が、勝敗を左右します。ウイルソンのイノベーションハブであるWilson Labsは、最先端のスポーツテクノロジーと専門知識を駆使して、革新的な製品を発明、設計、製作しており、ラケットスポーツ事業では、素材や力学面の強化、プレーヤーのプレイスタイルの進化に合わせた物理的パラメータの変更などに取り組んでいます。
現在、ほとんどのラケットのフレームは、軽量のグラファイトやグラファイトに、チタン、ケブラー、グラスファイバーなどの素材を組み合わせた複合材で作られ、フレームの柔軟性を高めています。このような先端材料の性能や挙動を予測するには、有限要素解析ソフトウェア(FEA)を使用が不可欠です。
Wilson Labsの設計エンジニアは、Altair HyperWorksTM のFEAツールを使い、シミュレーション、自動化、最適化技術を駆使して設計に要する時間を短縮し、積層複合材テニスラケットの製品価値を高めています。

ラケットの3Dモデル

ラケットのAltair HyperWorksコンポジットメッシュ
複合材料シミュレーションは航空宇宙などの業界で広く使われていますが、スポーツ用品メーカーにとっては比較的未開拓の課題でした。Wilson Labsは、テニス業界でFEAを適用した先駆者であり、レイアップ設計にとって、また、重量、強度、剛性、シンプルさの最適化にとってもFEAが優れたツールであると評価しています。
ラケットの積層複合構造の各プライについて、レイアップ設計書を確認してプライの位置を把握した後、表面をトリミングして調整し、プライの厚さを決め、材料特性、荷重、境界条件を設定しました。HyperWorksの構造解析・最適化ツールを使用していくつかの解析を行い、その結果と物理的なテストデータとの相関性を検証することで、解析モデルの動作と実際の動作の間に密接な相関関係があることが示されました。

静的試験シミュレーションの変位コンター

動的試験、最初の固有モード
このプロジェクトにより、HyperWorksの高い信頼性が示されました。テニスラケット解析モデルの精度は十分であり、実試験よりもはるかに効率的でした。Wilson Labsが期待する性能指標(質量、重心、動的剛性、静的剛性)については、物理的なテストと比較して4%未満の誤差しかありませんでした。
ウイルソン社は、FEA技術を導入したことで、新しい製品をより早く市場に投入できると考えています。また、プロのアスリートやスポーツ愛好家の高い要求に応えるスポーツギアを確実に提供することができます。
*本記事は、米国本社のブログ「Sports Physics: Space-age Advanced Materials Give Tennis Players a Competitive Edge」を翻訳したものです。
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