スポーツと物理学 – アイスホッケーのスティックの素材

バッティングシュートは、アイスホッケーにおいて、選手が繰り出すことのできる最も速く、最も強力なショットです。2012年のNHLオールスターのスキルコンペティションで、ボストンブルーインズのキャプテン、ズデノ・チャラは、時速108.8マイル(約175キロ、大谷翔平選手のメジャー初代打弾の初速と同じ)のバッティングシュートを放ち、世界最速のバッティングシュートの記録を樹立し、現在に至っています。チャラの205.74 cm、約118kgの体格が、驚異的なパワーを生み出すのに役立っていると言ってもいいでしょう。

バッティングシュート(英語でSlapshot)の名前の由来は、選手がホッケーパックのわずかに後ろの氷を「叩く」からだと思います。そこから自分の体重を使ってホッケースティックを曲げ、エネルギーを自分から氷、そして最後にパックに伝えるのです。

直感的ではないかもしれませんが、パックを打つ前に氷を叩くことで、スティックを曲げた時の位置エネルギーが選手から氷に伝わるスリングショットのような効果が生まれます。これにより、選手が直接打球する場合よりも、パックが空気中を速く飛ぶようになるのです。

この強力なショットには、スピード、接触の位置、タイミングのすべてが関係していますが、ホッケースティック自体の構成も関係しています。ホッケーがまだ始まったばかりの1800年代半ば頃、ホッケースティックは1本の木でできていました。しかし、このスティックがもろくて折れやすいことに気づいた選手たちは、複数の木材を重ねて製造するようになり、スティックはより丈夫で柔軟になりました。

柔軟なスティックの重要性とは?

2000年代に入ってからは、選手の体力、トレーニング、スポーツ用具が飛躍的に向上したことで、スポーツに新しいレベルの激しさがもたらされました。NHLのハードショットのデータを調べてみると、2000年頃からリーグのショットが格段に速くなっていることがわかります。これは偶然ではなく、選手が複合素材を使ったスティックを使い始めた時期でもあります。複合材のスティックは、木のような柔軟性と強度を持ちながら、重さが軽いため、選手の操作性が向上し、より速く振れるようになり、より大きな力が出せるようになりました。

両素材の性能を比較するため、Altair® Radioss®でこの「パチンコ」現象をシミュレーションしました。木材と複合材の両方で作られたスティックを使い、スポーツ用具、特にホッケースティックに軽量複合材を導入することで、選手や試合のパフォーマンスにどれほどの違いが出るのかを調べました。

スティックのモデリング

大きな変位、短い動作時間、テストするパーツ間の動的な相互作用を考慮すると、Radiossはバッティングシュートシミュレーションの理想的なツールでした。プリプロセッシングおよびポストプロセッシングにはAltair® HyperWorks®を使用しています。

ホッケースティックをモデル化するためには、まず各スティックの素材情報を定義する必要があります。複合モデルを正確に表現するために、スティックのシャフトとブレード部分に炭素繊維強化ポリマーの層材を巻き付けました。シャフト部分は中空で、ブレード部分には発泡材が入っています。

複合材の層については、Altair® Multiscale Designer®を使って材料を定義しました。このアプリケーションでは、構成繊維とポリマーマトリックスの材料特性を入力し、繊維の体積分率を加えて、複合材の有効な均質化された材料特性を計算することができます。Multiscale DesignerやAltair® OptiStruct®などのシミュレーション主導の設計ツールは、複合材料のための強力な陰解法ソルバーです。

Multiscale Designerでは、均質化に加えて、非均質化も可能です。これにより、繊維やポリマーマトリックスのミクロレベルでの応力やひずみの評価が可能となり、進行性の損傷や塑性材料の挙動を完全に把握することができます。

スポーツと物理学 - ホッケースティックの材料の重要性

複合材モデリング

スポーツと物理学 - ホッケースティックの材料の重要性

木材モデリング

次に、スイングと氷との接触の際の両スティックの適切な回転を定義する必要があります。バッティングシュートの巻き上げは、スティックを特定の場所で単純に回転させるだけではありません。スイングの際、選手はシャフトとブレードのフェースをパックに向けて傾斜させて構えます。

スポーツと物理学 - ホッケースティックの材料の重要性

典型的なバッティングシュートのスイングにおけるスティックの向き

選手の手の位置を再現するために、私たちは以下のような4バー・メカニズムのアプローチを採用しました。2つの可動ジョイントは選手の手を表し、シャフトによって連結されています。これにより、スティック上の手の合理的な運動学表現を定義しました。

バッティングシュートを受ける

スティックの初期回転速度を550rad/sに設定して、仮想の選手がシュートを打ちました。バッティングシュートのシミュレーションを行った結果、木材スティックと複合材スティックの結果は意外なものとなりました。スティックが床の接触している様子は大分異なりますが、接触の影響の受けるかどうかは、シャフトの剛性次第でした。

複合材のスティックは、木製のスティックに比べて、パックをコントロールする能力が高く、より多くのシュート力を生み出しました。パチンコ効果のシミュレーションを行ったところ、スティックが地面に着くと同時に、蓄積されたエネルギーが実際にパックに伝わることがわかりました。

それぞれのスティックは同じ速度でパックに向かっていましたが、パックに衝突する直前の木材ブレードの速度は、木材ブレードのパックコントロールが悪かったため、複合材ブレードよりも遅くなっていました。複合材スティックのバッティングシュートの速度は66.4mph、木材スティックのショットの速度は54.9mphでした。NHLの記録を塗り替えることはできませんでしたが、バッティングシュートを科学するには、パワーと精度、そしてハイテクなホッケースティックのデザインが必要であることが確認できました。

結論

マルチフィジックス設計ツールが、先進的なスポーツ機器の開発において重要な役割を果たすことは間違いありません。高度な材料挙動に関する知見を得ることで、エンジニアリングチームや設計チームは、より少ない反復回数と低コストで、より信頼性の高い正確なシミュレーションを行うことができます。スポーツ業界で競争力を高めるには、スポーツそのものと同じように、適切なツールを適切な時期に使用することから始まります。
Altair® Radioss®は、動的荷重下での高度な非線形問題に対する製品性能を評価し、最適化するための最先端の解析ソリューションです。あらゆる産業分野で世界的に使用されており、複雑な設計の衝突安全性や製造性を向上させます。複雑なマルチフィジックスシナリオに対応するソリューションの詳細については、www.altairjp.co.jp/radioss/をご覧ください。

スポーツと物理学

*本ブログは、本社ブログ「Mastering the Slapshot with Speed, Power, and Simulation」を翻訳したものです。

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カテゴリー: Altair Global Blog, 事例

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