[Enlighten Award軽量化構想部門受賞]アルミとCFRPのマルチマテリアル構造+トポロジー最適化で実現

日産自動車 アルミとCFRPのマルチマテリアル構造+トポロジー最適化で実現

50%軽量化した車のボディサイドパネル

日産自動車 - アルミとCFRPのマルチマテリアル構造+トポロジー最適化で実現

日産自動車 先端材料・プロセス研究所 主査 竹本 真一郎氏

日産自動車 先端材料・プロセス研究所が、質量を半分に軽量化した車のボディサイドパネルを開発した。14のパーツをそれぞれ金型でプレスし、溶接して鋼板製のボディサイドパネルを製造する従来の方法に対し、今回開発されたアルミニウムと短繊維による炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)の素材を組み合わせた超軽量となるマルチマテリアル構造により、トポロジー最適化を用いて設計したモノコックボディを1回の射出成形で製造できるようになる。このように、コストを抑えて製造時間を大幅に短縮する全く新しい材料とプロセスの目途を得た。

日産自動車 - アルミとCFRPのマルチマテリアル構造+トポロジー最適化で実現

日産自動車 先端材料・プロセス研究所 主任研究員 丹羽 勇介 氏

近年のSUV人気や、車の電動化により、車重は増加傾向にある。「ハイテン材、アルミ材による軽量化にも限界がきています。次の手段としてCFRP(炭素繊維強化プラスチック)があるわけですが、コストと強度・剛性を両立した今回の技術は、EV化に拍車をかけるインパクトがあります」(丹羽氏)。

日産自動車 アルミとCFRPのマルチマテリアル構造+トポロジー最適化で実現

敢えてゴールからチャレンジ

日産自動車 - アルミとCFRPのマルチマテリアル構造+トポロジー最適化で実現

日産自動車 先端材料・プロセス研究所 エキスパートリーダー 南部 俊和 氏

「日産としてはNissan GT-Rを中心にCFRPの採用をしてきました。今回のプロジェクトは5年ほど前から着手しました。」(南部氏)

そもそも先端材料・プロセス研究所は、10年先を見据えた研究開発のための組織。ゲームチェンジとなる技術の開発が求められている。今回の開発対象としてボディサイドパネルが選定されたのも、「大きなパーツに適用したほうが軽量化のインパクトが大きいので、ホワイトボディをやりたかった」(丹羽氏)、「軽量化効果、コストメリット、剛性・強度・衝撃などのテクニカルな難しさもあり、チャレンジすることに意味がある」(南部氏)、「CFRPやトポロジー最適化などの技術を適用しつつ、トライ&エラーでは不可能なバーチャルな開発手法の確立にも挑戦できる」(竹本氏)と、開発のゴールの思いが一つにまとまったためである。チャレンジングでもバリューの高いものに取り組むという、敢えて本丸に真正面から攻め込む研究所のスピリットが根付いている。

革新的ゆえに苦労を重ねた開発ストーリー

「ボディに使われている材料はアルミと炭素繊維のマルチマテリアル構造になっています。CFRPはコストが高いため最小限に抑えつつ、効果的に使いながらアルミを補強できる構造を検討しました。また、CFRPは繊維を編むとコストがさらに増えるため、織物にせずに短い炭素繊維を混ぜた樹脂で射出成形することを考えました。このように工夫することで、工程を簡素化すること、部品点数を減らすことも同時に叶えられます。」

ボディのトポロジー最適化や繊維配向の解析にはAltair OptiStruct、衝突安全解析にはAltair Radiossが使われている。「設計面でいえば、当初は計算条件すら設定することが難しく、アルテア社に業務委託をしました。何度も池袋サンシャインのオフィス(当時)に通って計算方法についてディスカッションを重ね、今では社内独自で設計できるようになりました。」(竹本氏)

日産自動車 - アルミとCFRPのマルチマテリアル構造+トポロジー最適化で実現

日産自動車 先端材料・プロセス研究所 主査 小田 崇 氏

これまでは金属、樹脂と別々の専門家が担当していたが、マルチマテリアルで一体化したことによる新たな課題も生まれた。製造を担当した小田氏は、「多くの樹脂を使うため樹脂流動解析を行わないとうまく成形できる形状を作れません。また、金属と樹脂を使っているためバイメタルのように収縮差で剥がれてきてしまい、熱解析も必要になりました。流動解析と熱解析は拡張子も違い、うまく連成できていないので、ひとつひとつの解析に時間がかかることが今の課題です。なかなか設計にフィードバックできないもどかしさがありました。」と語る。

日産自動車 - アルミとCFRPのマルチマテリアル構造+トポロジー最適化で実現

実物大の試作

Altair Enlighten Award軽量化構想部門を見事受賞

このマルチマテリアル構造のボディサイドパネルは、車両軽量化技術を表彰する「第8回Altair Enlighten Award」で軽量化構想部門賞を受賞した。まだ市販車には利用されていない革新的なアイデア、開発手法、素材、テクノロジーを評価する軽量化構想部門は、まさに本プロジェクトに相応しい。「栄えある賞をいただけて嬉しく思いますし、励みにもなります。」と南部氏は語る。

日産自動車 - アルミとCFRPのマルチマテリアル構造+トポロジー最適化で実現

トロフィー授与式(右:竹本氏、左:アルテアエンジニアリング 社長 加園)

設計を変革していく

今回の成果は、まずは早く採用できる部品や部位への適用検討を進め、最終的にはボディサイドパネルで量産できるプロセスを目指していく。

「今回、新しい材料とプロセスを開発し、それを使いこなす設計を確立できたことで、設計自体に変革をもたらす手応えを得ました。今後はさらにデジタルを賢く使い、DfAM(3Dプリンティング)やデジタルツインでも成果を出していきたいと考えています。」(南部氏)

規制の強化やEV化が進む時代において、軽量化技術はどのメーカーも取り組む技術課題だ。日本で生まれた画期的な技術がAltair Enlighten Awardを受賞したことで世界中に周知された。世界中のメーカーや消費者に影響をもたらす未来を心待ちにしたい。

日産自動車 - アルミとCFRPのマルチマテリアル構造+トポロジー最適化で実現

マルチマテリアル構造ボディサイドパネルプロジェクトメンバーと

Altair Enlighten Awardについて
https://web.altair.com/enlighten-j

第8回Altair Enlighten Awardの受賞企業一覧
https://www.altairjp.co.jp/news/8th-altair-enlighten-awards-winner

 

※記念撮影時のみマスクを外しています。また、トロフィー受け渡しの直前に手指のアルコール消毒を行いました。

5 3 votes
Article Rating

カテゴリー: イベント

Subscribe
Notify of
0 Comments
Inline Feedbacks
View all comments