以前、「データ分析が競争力、サーキットの内外で戦うレースチーム」の記事において、車両に取り付けられたセンサーのリアルタイムデータ分析が、F1レースにおいていかに重要であるかを述べました。ここでは、コンマ数秒がレースの勝敗をわけるF1業界で、データ分析を導入し数々の勝利を収めているプロドライブ社の事例をご紹介します。
プロドライブは1984年にイギリスでモータースポーツ企業として設立され、現在では自動車、航空宇宙、防衛、海洋の各分野において企業向けのエンジニアリングソリューションを開発しています。同社は、モータースポーツ界の名だたる企業を支えており、例えば、400台近いアストンマーチンGTカーの製造、レースのサポートのほか、複合材料部門では、軽量の炭素繊維強化ポリマーとビジュアルカーボン部品を製造しています。プロドライブは英国の名だたる大企業の一つであり、モータースポーツ技術における世界的リーダーとして、F1、ダカールラリー、ルマン、世界ラリー選手権など、数々の勝利を収めています。
課題
プロドライブで使用されていた従来の分析システムは、車からセンサーデータを収集していましたが、多くのモータースポーツ分析システムと同様、長期間にわたって収集された大規模なデータセットの扱いに苦労していました。車両のライフタイムに渡ってエンジンデータを分析すれば、車の性能を向上させるための設計や製造の微調整に関する貴重な知見を得られます。重要な部品がいつ故障するかを正確に予測することができれば、レース中のピットストップのタイミングを最適化することもできます。プロドライブの車両に搭載されているセンサー数とサンプリング頻度を考えると、車両の一生で収集されるデータ量は相当なものです。各車両は、週末のレースで平均約半テラバイト、テスト走行では毎週5~10テラバイトのデータを生成します。プロドライブがこの膨大なデータ量を管理するためには、より優れた管理機能を実装できるだけでなく、それらのデータを管理し、迅速な開発・実装サイクルまでをサポートできるようなデータ分析ソフトウェアは必須でした。
ソリューション
プロドライブのエンジニアリングチームは、高頻度かつリアルタイムな複数のデータストリームを処理し可視化する能力に加え、変化や異常の発見についての経営陣とのコミュニケーション方法の改善策を探っていました。これまではPythonなどを使用してカスタムダッシュボードやストリーム処理アプリケーションを独自に開発していましたが、それらは容量要件を満たせず、使い勝手も悪く、開発期間も長く、経験豊富なプログラマーが必要で大変なコストがかかるものでした。
そこで、プロドライブは、16年以上の取引があり信頼のあったアルテアが提供するデータ分析プラットフォームが、どれだけこちらの要件を満たせるソリューションであるかの調査を開始しました。データ可視化とストリーム処理の要件に対応するため、Altair Panopticon™を選択し、アルテアと協力して概念実証の展開を行い、それが成功したことを確認しました。
現在、プロドライブではPanopticonを使用し、エンジニアがIT部門のサポートなく設計、展開、保守できるダッシュボードに、車両から流れてくる履歴データとリアルタイムデータを表示しています。Panopticonのストリーム処理アプリケーションは臨機応変にデータ比較が可能で、高度な統計機能をデータに適用して、外れ値や異常値を自動的に特定できます。Panopticonを導入することで長期的な指標に目を向け、その場の洞察に基づいた限られたデータのみを調査するのではなく、エンジンの寿命である15,000キロの間に収集されたすべてのデータを用いた評価が可能になったのです。
成果
Panopticonの導入によって、エンジニアが傾向を把握し、潜在的な問題を特定し、製造の設計や改善に役立つわかりやすいデータの可視化を実現しました。2022年のデイトナ24時間レースでは、プロドライブの顧客であるMagnus Racingが車両の後部に大きなダメージを受ける事故に見舞われましたが、ギアボックスの温度の上昇が問題のシグナルであることを発見できたため、次のピットストップで迅速な修理を行い、バンパーがない状態でもレースを完走できました。実戦でデータを活用できる能力こそが、プロドライブがレース界で屈指の実力者として名を連ねる所以なのです。
Panopticonは、レースで各エンジンの性能と能力を明確に把握できるだけでなく、設計や製造段階における問題を迅速に特定し、新しいコンポーネントや材料を評価し、ランキング上位を維持するための新しい設計を開発するのにも役立てられています。
関連記事:データ分析が競争力、サーキットの内外で戦うレースチーム
カテゴリー: データアナリティクス, 事例