最近、水素タンクのAltair OptiStructモデルを特別に頂戴しました。厚肉シェル要素でCFRPの積層構造までしっかりモデル化されているのに、材料も線形、解析も線形静解析と、ちょっと勿体ないと思ったので、Altair MultiScale DesignerでCFRP材料を作り非線形の解析をしてみることにしました。
標準的な繊維、標準的なエポキシで作った CFRP で解析してみた
タンクの素性を知らないので、私が勝手に材料を作ることにしました。内圧50MPaを掛けようとしたところ、76%(38MPa)の圧力で、材料が壊れて解析が終了してしまいました。実際にはそこでタンクが割れてしまうと見てよいでしょう。そこで少し手前の73%(37MPa)の状態を確認しました。
エポキシの塑性ひずみは0.021(2.1%)。今回の材料はちぎれずに伸びると仮定しているので、塑性してしまうことは良くはないでしょうが、材料が壊れるほどの大きな塑性ではありません。
一方で、炭素繊維のほうはダメージが入っていました(0より大きな数値が現れました)。これは3300MPaの最大許容応力を超えてしまい、繊維がちぎれかけていることを示しています。炭素繊維強化樹脂(CFRP)で炭素繊維がちぎれてしまってはおしまいです。
もしMultiScale Designerを使わずに普通の均質材料で解析したとすると、炭素繊維とエポキシを平均化したような応力しかわからないので、応力が高いなぁくらいは分かりますが、どちらが破壊されたのかまでは分かりません。
タンクが割れてしまうのは炭素繊維がちぎれるためであり、エポキシの破壊ではないということがはっきりしました。あまり深く考えずにはじめましたが、図らずも、繊維と樹脂、それぞれの評価ができるMultiScale Designerの良さが発揮されました。
(左)MultiScale Designerなら炭素繊維がちぎれたことが分かります (右)均質材料では、応力が高いことは分かりますが、炭素繊維とエポキシのどちらが壊れたかまでは分かりません
炭素繊維のグレードを上げてみた
炭素繊維に問題があることが分かったので、炭素繊維のグレードを上げてみることにしました(ほかにも巻き方・巻き数を変える、炭素繊維の割合を増やす、という案もありましたが、一番簡単そうな作業を選択)。繊維のグレードを標準グレードから中弾性グレード(標準よりも一つ高いグレード)に上げてみました。ヤング率も最大応力も大幅に強化されたので、今回は期待できます。
計算を流してみると、今回は材料の破壊は起きずに 100% (50MPa) まで負荷できました。今回の繊維は期待に応えてダメージ0(最大応力以下に収まる)となりました。
これまでエポキシの塑性は気にしていなかったのですが、炭素繊維のダメージがなくなると、今度はエポキシの塑性が気になってきます。今度はエポキシのグレードを上げたらどうなるか見てみたい…。やればやるほどMultiScale Designerの適用が広がりそうです。
MultiScale Designerの思わぬメリット
- タンクが割れる原因が(炭素繊維とエポキシ、どちらの破壊か)明確になる
- 問題となった材料を作り直して、すぐに再検討できる
水素タンクの解析をしている方は、MultiScale Designerのご利用をぜひ検討ください。
OptiStructでMultiScale Designerの材料を使った構造解析を行う例題はこちら(要ログイン)です(対象はタンクではありませんが、手順は同じです。今回は特別にいただいたモデルを利用したため、データの配布は行っておりません)。