2022年度のAltair最適化コンテスト(AOC)で大賞を獲得した神戸大学 学生フォーミュラチームの森田 航さんを訪問し、トロフィーの授与式を行いました。

左から神戸大学学生フォーミュラチーム(FORTEK)の本多さん、河田さん、森田さん、手塚さん、アルテア アカデミック担当の中川
応募作品であるベルクランクは、2022年度の学生フォーミュラ大会に参戦した車両で実際に使用されたパーツです。森田さんはAltair Inspireを独学で習得し、設計に適用しました。Inspireを使い始めたきっかけや、設計に活かすまでの苦労、今後の取り組みについて伺いました。
― 最適化に取り組むきっかけをお聞かせください。
森田:1年生の時にベルクランク、リアバルクヘッドの肉抜きにInspireを使ってみてと先輩言われたことがきっかけです。
― すぐに結果は出ましたか。
悪戦苦闘でした。肉抜きしすぎて原型をとどめない結果が出てきたりしましたが、入力条件や設計領域、形状コントロールなどを勉強してだんだんと形になってきました。
― 触り始めてから「形になるかも」と思えるようになるまで、どのくらいの時間がかかりましたか。
2~3週間程度でしたね。もともとチームにInspireを活用するノウハウがまだなかったのでそのくらいかかりましたが、教育する体制があれば1週間程度でできたと思います。
― 設計の課題解決のためにInspireを使い始めたのですか。
軽量化などのコンセプトを決めて導入したわけではありません。車両性能の要件から目的の重量を決めるのはなかなか難しいです。例年、(パーツに対して)適当な模様を描いて肉抜きをしていたのですが、今回は偶然Inspireのことを知っていたので使用してみました。
― 使ってみてどのように感じましたか。苦労した点などをお聞かせください。
荷重を入力するときに、マウスでモデルを回転させる操作が使い慣れたCADと違って難しかったですね。(既存のツールでは)ジオメトリの幾何配置が空間上に線や点で決まっていて、それに従う方向に力が加わっている、というような解析方法です。一方で、Inspireは点を指定して角度をぐるぐるとマウスカーソルで動かして指定するので難しいです。
― CADソフトにアドオンされた解析ツールは、設計データから直接読み込めるからそのような指定ができるようですが、Inspireに読み込むときは情報として引き継がれないのですね。
従来のCADでは肉抜きしたい形状のスケッチを平面上に描いて、その形状に押し出してカットし、有限要素解析の機能で強度を検討していました。
Inspireでは最初に荷重の入力をしておけば、(ソフトウェア側で)それなりに良い形状を出してくれるので、工数が少なくなりましたね。
― ちなみに何回くらい最適化を試しましたか。
最初のまったくわからない状態からだと、だいたい15回くらいは最適化を繰り返しました。
― アルテアに期待するサポートや試してみたい解析はありますか。
Inspireでトポロジー最適化した形状から、そのまま製作モデルまで出力できるようになると便利ですね。最適化した後の形状はメッシュの集合体のようになっているので、そのまま工作機械に読み込んで切削したりはできないので。
なるほど。InspireにはPolyNURBSという表面を滑らかにする機能があるのでぜひ使ってみてください。そのまま工作機械に渡せるわけではないですが、CADに読み込むことで設計のガイドラインとして使えると思います。
― 10月に開催した学生向けの最適化トレーニングにも参加していただきましたが、感想やご要望があればお聞かせください。
(トレーニングで実践した)剛性を最大化して質量を50%にする、といった手法はわかるのですが、より詳細な「固有振動数」などの項目についても知りたいと思います。あとは最適化以外の機能についても知りたいです。
Inspireには機構解析機能や3Dプリンティングのシミュレーション機能など、設計の上流で役立つ機能が多数ありますので、ご紹介の機会をつくりますね。
― これからシミュレーションを学ぶ方に向けたアドバイスがあればお聞かせください。
すこし広い話になるかもしれませんが、なるべく静解析や最適化などの難しいツールを使わないほうがいいと思っています。書籍に載っている計算式や表計算ソフトでできるような物理シミュレーションを基本的に使用しています。
― 基本の理屈に立ち返ることも大事、ということですね。
はい。計算アルゴリズムのわからないツールを使って設計しても、理解度が足りなくて詰まってしまうことが多くなると思います。材料力学などの基本的な知識だけで対処できる項目には、なるべくそれらだけで進めたほうが設計のロジックとしても理にかなっているので。
おっしゃる通りですね。メーカーの現場でも、図面が出てきたらすぐにメッシュを切って解析して…、というような話をよく耳にしますが「中身がわからないものは怖い」という感覚は大事だと思います。拘束条件を例にすると、回転フリーと完全固定とではまったく結果が変わってきます。実際のモノはどうなっているかを理解しないまま、適当な条件で解析したとしても計算結果としては出てきてしまいますからね。まったく間違った形を信じてしまうかもしれない。
― Inspireを使用するうえでどのように勉強するのが良いと思いますか。
私自身が一番参考にしたのはソフトに備わっている日本語ヘルプです。
また、自分より上の世代でInspireを使っていた方がいたので、「形状コントロールというのがあるよ」といった、使い方に関するアドバイスをいただいていました。
バージョン2022より日本語ヘルプが搭載しており、その機能を活用いただいてると聞いてうれしく思います。改めまして、この度の受賞、誠におめでとうございます。本日はありがとうございました。
最後に実際に2022年度大会に参戦した車両と、応募いただいたベルクランクの試作パーツ等を見せていただきました。実際にフォーミュラカーなどの制作に関わっている方にとっては当たり前のことだと思いますが、実装したパーツや試作品を手に持たせていただいたときに、金属部品としての重さを掌に感じ、細かいパーツごとの軽量化や最適化が、最終的にマシン全体のパフォーマンスにつながることを実感しました。
次回のコンテストにも新たなチームで取り組んだ設計の成果をご応募いただきたく思います。