容器設計におけるCAE消費財の容器に注目したことはあるだろうか。多くの方は店頭での見栄えや、実際使用した際の使いやすさなどの面で何らかの感想を持っているだろう。だが、大手消費財メーカーがCAE(Computer Aided Engineering)を適用したデザイン開発でしのぎをけずっていることはご存知無いだろう。これまで、自動車や航空機などを筆頭に、製造業におけるCAEはかなり広範にわたって普及しているが、昨今消費財メーカーの容器分野へのCAE普及がすすんでおり、各消費財メーカーは実績を挙げつつも、ある課題に直面している。
軽量化のニーズとその変化
発端は1997年に施行された『容器包装リサイクル法』である。本法律は家庭ごみの約6割の体積を有する容器包装関連廃棄物のリサイクル制度を確立し、循環型社会の実現を目指して制定された。この中で、包装容器利用事業者である消費財メーカーは同協会へ『再商品化委託費用』をその容器包装使用量に応じて支払うことで、リサイクルに係わる費用を負担することとなった。この『再商品化委託費用』は、分別収集率が向上とともに増大する仕組みのため、消費財メーカーの包装容器3R(リデュース・リユース・リサイクル)活動を促進することとなった。こうした業界の雰囲気の中、容器を軽くし、省資源を目指す気運が高まり、同時にCAE を導入し軽くて薄くて丈夫な容器を目指し、リブ構造やパネル構造など、補強形状の付与を中心とした設計が盛んに行われた。云わば第1世代の軽量化設計である。こうして2000 年を過ぎる頃には、多くの消費財メーカーが、何度も詰替えて使用でき、少ない樹脂で成形できる本体容器を開発し、製品に採用していった。しかし、開発された各社の容器は似たような形状が多くなってしまった。
その後、消費者の環境意識が高まりによる詰替え製品の需要拡大を受け、消費財メーカーの開発は詰替えパウチに軸足を遷した。こうした中では、本体容器はしっかりと製品イメージを担える個性的なデザインの実現と軽量化の双方をバランスした設計が求められることとなった。同じに見えるデザインの中でも、わずかに寸法を変更することで容器の強度を高める第2世代の軽量化設計である。この設計は第1世代の設計にくらべ、制御する設計要素の数が多くCAE も繰り返し行う必要があり、設計は格段に難しくなった。
新たな課題 – 若手の育成
これまでの経緯によって、消費財メーカーは包装容器における環境対応設計にCAE が不可欠であると認識するに至ったが、環境問題への対応の深刻さはさらに増してゆくことが予想されており、CAEへの期待は大きい。ところが今は別の問題が浮上している。それは若手の育成だ。90年代に30代だった当時の若手技術者たちの定年が迫っているのだ。包装容器界におけるCAE 黎明期からずっと業界を牽引してきたライオンは、シミュレーションの結果を本当に理解することに力点を置き、実績と経験を積んできた。「CAEは機械工学的な現象への理解と、ソフトウェア操作の熟達の両方が必要です。ソフトウェアの操作が難しいと、シミュレーション結果が出たこと自体に満足してしまいがちですが、本当はそこからが勝負。実験を行い、シミュレーション結果と比較し、現象を深く理解することが大事。その上で次にどうするのかを、議論出来る人を増やしたい」とライオン中川氏は言う。
PCMが現場を支える
ソフトウェアの操作にかける時間は最低限にし、結果をもとに考察する時間を増やす。この考えに応えるべくアルテアが開発したのがPCM(Package CAE Manager)というプラスチックボトル構造解析に特化したCAEツールだ。ボトル特有の問題、例えば製品の入った段ボールを積み上げたときに、上から受ける重さにどの程度ボトルが耐えられるかを検証する圧縮解析を簡単な操作で行うことが出来る。「PCMはソフトウェアの操作に時間をかけず、早く結果が出せます。その分考察や議論の時間をとれるので若手の教育にまず必要なツールです。また、これからCAEに取り組もうとする企業にもお薦めですね。初めてでも簡単に解析結果が出ることで、まずはCAEに対する理解が深まります。解析の確度や精度は横において、まずは現象を俯瞰してみることが大事です」
「ライオン流の設計とはどんなものですか?」との問いには興味深い答えが返ってきた。「私たちが目指しているのはチームスポーツ。容器の形を直接取り扱うのはデザイナー、CAD設計者、CAE技術者など立場と技能の異なる人たちです。容器の形に関する課題をやり取りしながらより良い容器を目指してチームで進むんです。このとき大事なのはレスポンスなんです。誰かが、新しい仮説を立てたとき、その仮説が正しいかどうかをCAEで検証するとします。その答えが1ヶ月後では議論になりませんよね。では5分後だったらどうでしょう。仮説が正しいにせよ間違っていたにせよ、次はこれを試そう・・・そうなりますよね。そんな仕事はきっと楽しいはず。PCMに期待するのはそんなことを実現してくれることなんです」
昨年入社したライオンの若手社員は、PCMでボトルの圧縮解析を習得し、現在はスクイーズ解析に挑戦している。「今年中に解析をしたボトルが製品として世の中に出て行くのを見届けたいですね」と先輩社員たちは笑う。
Packaging CAE Manager(PCM)とは
PCMは、アルテアエンジニアリング株式会社が開発した、プラスチックボトルの構造解析に特化したCAEツールです。軸圧縮試験、負圧や陽圧変形試験をコンピュータ上で仮想実験することができ、試作回数の削減、設計段階でのボトル性能予測・評価に貢献します。PCMは、複数の大手消費財メーカー様の協力を基に、包装容器開発者が求める解析仕様を標準化し、開発されました。日本の包装容器開発者様に広く使っていただきたいソフトウェアです。
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